他校の生徒であるにも関わらず、七海はすっかり観月に懐いている。
観月さん、観月さんと、子犬のように彼に駆け寄っていく様子や、練習の後に観月に褒められてパタパタ振られる尻尾の幻が見えるほど嬉しそうに喜んでいる姿は、まるで飼い主と犬のようだ。

もっとも、他のルドルフ生達からみれば、かつてないほど過保護に面倒を見てやっている観月の姿は、飼い主というよりも『お母さん』といった感じだったが。

七海の練習に付き合ってやっているのはあくまでも青学のルーキーのデータをとるためであり、打算に基づいた策略なのだと主張していた観月だが、最近ではどうにもそれだけとは言い切れなくなってきている。

「あっ、いけない、ポカリ置いて来ちゃった」

スポーツバッグの中を探っていた七海が言った。

「キミのことだからそんな事もあろうかと、ボクが用意してきていますよ」

「わ、有難うございます!」

「こっちが冷えたスポーツドリンク、こっちが常温のままのものです」

「二種類あるんですか?」

「冷えているほうは、あくまでも渇いた喉を冷やして清涼感を得るために最初に少し飲むだけにして、後はこっちの常温のほうを飲みなさい。急激に冷たいものを大量に飲んでは身体に良くありませんから。キミ、この前お腹壊していたでしょう」

七海は無垢な瞳をきらきら輝かせて観月を見ていた。

「観月さんって、お母さんみたいですね!」

「どうしてそうなるんですか…」

観月はガックリと肩を落として項垂れた。


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