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あれは丁度今から二年前、私がまだ一年生だった秋のことだ。
氷帝学園に一番近いコンビニでお菓子を買おうとしたところ、1円足りなかった。
たかが1円。されど1円。
その日は一人でコンビニに来ていたため、貸してくれそうな友人も近くにおらず、泣く泣く諦めかけたその時、

「なんだ、金が足りねーのか?」

声変わりしたばかりに違いないのに妙に色っぽい美声が後ろから聞こえたと思うと、肩を掴まれてグイと横に避けさせられた。
驚いてぱちぱちと瞬いた瞳に、目の醒めるような美しいブルーの瞳と金茶の髪に彩られた美貌が飛び込んでくる。

「幾ら足りねえんだ?アーン?」

「い、1円…」

「たった1円か。生憎小銭は持ってねぇ。おい、店員、これで会計しろ」

シュパアァァーッ!と彼がカウンターに無造作にスライドさせたのは、都市伝説でしかその存在を知らなかった黒いクレジットカードだった。

「あ、ありがとう…!」

「ふっ、気にするな。今日は俺様の記念すべきコンビニ初体験の日だからな。そんな場で氷帝生に惨めな思いをさせるわけにはいかねぇだろ。なぁ樺地?」

「ウス」

**

「それでこの人に一生ついていこうってきめたの」

「1円でかよ!」

「やっすい忠誠心やなぁ」

「俺はわかりますよ、先輩の気持ち。金額の問題じゃないんですよね」

ソイラテを手に忍足くんは呆れ顔になったが、その忍足くんを押し退けんばかりの勢いで拳を握った鳳くんが言った。

「誰かについていこうと感じた時って、他人から見ると全然大した事じゃない切っ掛けだったりするし、理屈じゃないんですよ!!」

「そういうことなら、なまえ先輩。これから一週間何でも好きなものを奢ってあげますから俺の下僕になって下さい」

「日吉はあからさま過ぎやろ」

「下剋上だ」



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