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家に帰ると、玄関に男物の靴があった。
お父さんのじゃない。
見覚えのある大きなスポーツシューズに、もしかして…と思いながら居間に向かうと、やっぱり長身の幼なじみの姿があった。

「あれ?蓮二?」

「邪魔しているぞ」

「今日東京に行ってたんじゃなかったの?」

「早めに終わったのでな。お言葉に甘える事にした」

「そっかー。じゃ、ご飯食べてくんだね」

「ああ」

東京には、乾貞治くんという蓮二にとってのもう一人の幼なじみがいる。
二人は小学生の頃同じテニススクールに通っていて、殆ど毎日くたくたになるまでテニスをした仲だった。
蓮二が神奈川に引っ越してきた事で暫く会わずにいたらしいが、中三の関東大会の時に再会して以来、また交流が復活したようだ。
今日みたいに蓮二が東京の乾くんの家に遊びに行ったり、乾くんが神奈川に来たりしている。

「あら、お帰りなさい」

「ただいまー」

首に巻いていたマフラーを外していると、蓮二をご飯に誘った張本人であるお母さんが居間に入ってきた。

「ごめんなさいね、蓮二くん。もう少しでご飯の支度出来るから待っててね」

「いえ、すみません、急にお邪魔して」

「いいのよー、蓮二くんならいつでも大歓迎なんだから!」

お母さん機嫌いいなぁ。きゃっきゃしてる。
なんなら泊まっていってもいいのよなんて言われて、蓮二は苦笑いでやんわり断っていた。
昔から賢くてお行儀が良い子供だった蓮二はうちの両親のお気に入りだ。

この様子なら大丈夫だろうと二階の自分の部屋に向かいながら、ぼんやり考える。

私と蓮二はちょっと変則的な幼なじみだった。
昔からベッタリな関係だったわけではない。
元々は父親同士が学生時代からの親しい友人だったということで交流が始まり、やがて母親同士や子供同士も仲良くなって家族ぐるみの付き合いになった。
最初は東京と神奈川で離れていた家も、柳家がうちの近くに引越して来たことで今ではご近所さんになった。

昔は私とあまり身長が変わらず、おかっぱ頭で女の子みたいだった蓮二も、みるみるうちに背が伸びて顔つきも変わっていき、今では何処に出しても恥ずかしくない立派な男の子だ。

成績は常にトップクラスだし。
テニスも巧いし。
中学に入学したばかりの時はそうでもなかったのに、卒業を迎える頃には女の子達からの人気もすごいことになっていた。
たぶん、4月からの高校生活でもそれは変わらないだろう。
いや、外部から来る子もいるから、もっとファンが増えるかもしれない。



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