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「いたっ…!」

舌に鋭い痛みを感じ、反射的に手で口を押さえた。
パンを食べている途中、うっかり舌を噛んでしまったのだ。
傷口はたぶん大したことないのだろうけど、痛くてじわりと涙が滲んだ。
もちろんそれを見逃す蓮二ではない。

「どうした?」

「…ううん…別に…」

「とお前は言うが、舌を噛んだ確率100%」

分かっているなら聞かないで欲しい。
涙目で睨んでも涼しい顔をしているのが憎たらしい。蓮二は意地悪だ。

「見せてみろ」

「え……い、いいよっ!」

「良くはないだろう」

「い、いいってば!」

「なまえ」

言葉と共に伸びてきた蓮二の腕を避けて、さっと立ち上がる。
ちょっと悪いかなと思ったものの、みんながいる前で口を開けて噛んだ部分を見せるなんて出来るわけがない。
だって恥ずかしいし。
丸井くんと仁王くんなんてめちゃくちゃニヤニヤしながら見てるし。

立ち上がった勢いのまま、私は少し離れた場所にあるベンチでスケッチをしている幸村くんに駆け寄った。
今日はよく晴れたから、たまにはみんなで一緒にご飯を食べようと誘われて屋上庭園に来ているのだ。
お昼休みはまだ半分ぐらい残っている。

「噛んだ所は大丈夫?」

クロッキー帳を広げたまま、幸村くんが横目で私を見る。
整った口元には淡い微笑が浮かんでいて、まるで幸村くん自身が綺麗な絵画のようだ。
私は頷いて幸村くんの横に座った。
ぴったりくっつくのではなく、少し離れて。

「蓮二って過保護だよね」

「面倒見がいいという意味でなら同意かな。赤也も随分懐いてるし、後輩達からも慕われているからね」

「ふーん……」

「あ、今ヤキモチ焼いた?」

「焼いてない!」

「ああ、ほら、後ろ。危ないよ」

「えっ」

振り返ったのとほぼ同時に、後ろにいた人物に両手で頭部を固定されて上を向かされた。
蓮二の顔が上から覆い被さってくる。
がっつり深く唇と唇を重ね合わせて、生暖かい肉厚な舌に撫でるように舌を舐め回された。

「あ……ぅ、」

「問題はないようだな」

顔を離した蓮二がしれっとした顔で言った。
親指が私の濡れた唇を拭う。

「さっきの質問だけど」

背中のほうから幸村くんの声が聞こえてきた。
面白がっている声だ。

「蓮二が過保護なのはキミにだけだよ。ほんと、目に毒過ぎて見てられない」



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