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はじめちゃんと裕太くんがU-17と呼ばれる高校日本代表候補の合宿に行って、一週間が経った。

はじめちゃんは毎日連絡をくれるけど、裕太くんからも電話やメールが来る。
今日はこんな練習をやりました、コントロール力が上がった気がします、といった内容はいかにも努力家な後輩らしくて好感が持てた。
テニスの事以外にも、不二くんやはじめちゃん絡みのぼやきを聞く事も多い。


『観月さん、今日は薔薇風呂にしてたんでみんな驚いてました』

「はじめちゃん…」

そりゃ驚くだろう。
合宿所のお風呂で薔薇風呂なんて、普通では考えられない。
電話越しの裕太くんの声も心なしか引き気味だ。

『跡部さんが一緒だったから、ああなるほど跡部の仕業かって、みんな納得してましたけどね』

「跡部くんなら何でもありな感じだもんね」

『あと、入江さんっていう高校生の人も普通に一緒に入ってました。良い香りだね、って。俺にはちょっと理解できないです』

「大丈夫。裕太くんの感覚が普通だよ」

はじめちゃんや跡部くんはギムナジウムみたいな所でフリルのブラウスを着ていてもなんら違和感を感じないが、日本のごく一般的な中学生の男の子というなら裕太くんみたいな子がスタンダードだと思う。
弟に欲しいタイプだ。

「あ、ちょっと待って」

着信を知らせる音が聞こえ、一度携帯電話を耳から離して画面を確認すると、案の定はじめちゃんからだった。

「ごめん、はじめちゃんから電話みたい」

『あ、じゃあもう切ります。すみません、長電話になって』

「ううん。たくさんお話出来て楽しかった。ありがとうね。練習頑張って」

『はい!』

裕太くんとの電話を切って、直ぐにはじめちゃんからの電話に出る。

「もしもし?」

『さっきまで話していた相手は裕太くんですね』

うわ……バレてるよ裕太くん……。

「怒らないであげてね。合宿でのはじめちゃんの様子を教えてくれてたんだから」

『それならボクに直接聞けばいいでしょう』

「妬かない妬かない」

『妬いてません』

ちょっと拗ねたような口調が可愛い。
でも激怒するのは分かっているので本人には言えない。

「今日の練習はどうだった?」

『さすがにあのサーキットにも慣れてきましたね。練習は概ねシナリオ通りです。順調ですよ』

「そっか、今日も一日お疲れ様でした」

『ええ。疲れはしましたが、充実感のある疲労なので、辛いとは思いません』

「はじめちゃんはキツいからってそう簡単に逃げ出すような男の子じゃないもんね」

『当然です。ボクにはまだやるべき事がある』

凛としたその声も、話し方も。
いつもはすぐ隣で聞いていたものだから、電話越しに聞くのは何だか少し寂しい。
でも頑張っているはじめちゃんに弱気な事を言うわけにもいかない。

「頑張ってね、はじめちゃん」

だから精一杯の気持ちをこめて応援する。

『なまえ』

「なあに?」

『練習は辛くありませんが、キミが傍にいないのは寂しいですよ』

「…うん、私も」

電話越しに大好きな人の声を聞きながら、カーテンを開けて夜空を見上げる。
はじめちゃんにも同じ月が見えているんだと思うとすごく切なくなった。



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