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青学は中高一貫校なので、高校になってもテニス部の顔ぶれにそれほど変化はない。
ただ、大きな変化としては、勉強に専念するために大石くんが、実家のお寿司屋さんの跡取りとして本格的に板前修行に入る事になった河村くんが、今のテニス部にはいない。
菊丸くんや不二くんもやっぱり寂しそうだ。

そして、もう一つ変わった事がある。
部室だ。

中学から持ち越した用具などもあるから、マネージャーとして私はその移動と整理整頓を行っていた。
何故か手塚くんも一緒に。

「あ、月刊プロテニスだ。凄い!手塚くんのインタビューが載ってる!」

「別に凄くはないが…それはU-17の時に取材を受けたやつだな。色々アンケートを取っていたからそれだろう」

「えーと、なになに…『最も扱いが難しいタイプの部員は?』『闘争心を露わにしない、天才肌の選手』…て、これ不二くんじゃん。ピンポイントで不二くんのことじゃん」

そっか、手塚くんもやっぱり不二くんの事は扱いが難しいヤツだと感じてたのか。ですよね。

「不二くんはこれ見てないんだよね?」

「ああ。確かまだ見ていなかったはずだ」

「でもこれ不二くんが見たら、『へえ…手塚はボクのこと扱いが難しいヤツだって思ってたんだ…ふぅん…知らなかったよ』って絡まれると思うけど」

「…不二には絶対に見せないでくれ」

「了解しました」

『今、部室に欲しいもの』という質問の回答が『パソコンとプロジェクター、加湿器』となっているが、この部室には両方ある。
手塚くん達の高等部入学に合わせて監督が用意してくれたらしい。
これらはデータ管理や資料映像を観る時などに活用されている。
無いのは加湿器だけだ。

「今度うちにある使ってない加湿器持って来ようか?」

「だが、それではお前に迷惑がかかるだろう」

「ううん、逆にみんなに使って貰ったほうが嬉しいよ。お母さんが新しいのに買い換えたから仕舞ってあるだけで、ちょっと古い型だけどまだ充分使えるから勿体無いと思ってたんだよね」

「そうか…そういう事情であれば是非頼む」

「うん、任せて!」

早速運んで来るとして、やっぱり一人だとキツイな、誰かに手伝って貰おうか、などと考えていたら、何だか真剣な表情をした手塚くんが私を見ていた。

「手塚くん?」

「お前はもっと人に頼っていい」

冷静な声で突然発せられた言葉がそれだった。

「お前の能力や性格を否定するわけではない。むしろ、そういったお前の性分は非常に好ましく思う。だが、人間は一人では生きられない生き物だ。お前が皆を支えてやりたいと思ったように、俺達もお前の事を支えたいと考えている」

「手塚くん…」

「完璧でなくてもいい。辛い時には誰かを頼ってもいいんだ。俺は喜んで力になろう」

「う、うん…有り難う」

「いや、大したことは言っていない。だが、友人として少しでも力になれたのなら嬉しく思う」

「うん、凄く力になったよ!ありがとう!」

「そうか…ならば良かった」

ポーカーフェイスが僅かに崩れて、ほのかな笑みが覗く。

「これからも油断せずに行こう」

「うん!」

突然部室のドアが開き、「話は全て聞かせて貰ったよ」と笑顔の不二くんが入って来るまで、残り5秒。



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