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シャリ、シャリ、シャリ。

と言っても、お寿司じゃない。
スプーンでかき氷の氷の山を崩している音だ。

暑い夏にはやっぱり冷たいかき氷だよね!というわけで、かき氷を食べる事になったのは良いものの、私はまだほんの少ししか食べられていない。
何故なら、いざ食べようとしたところで、日吉くんがおもむろに「なまえ先輩、知ってますか」と話しかけてきたからだ。
お陰で私はシロップがかかった冷たい氷をスプーンで崩しながら彼の話に耳を傾ける事になった。


「T駅から少し歩いた辺りに今は廃墟になっているマンションがあるでしょう」

「あ、うん、そのマンションなら知ってる」

この氷帝学園の最寄り駅を通る路線で何駅か行った先の町にあるマンションだ。
私がもっと小さかった頃に、お母さんが近所のおばさんとそのマンションの噂を話していたのを覚えている。
あまり良い内容ではなかった。
マンション自体には問題はなかったようだが、窓から見下ろした場所に墓地が広がっていたためだ。
案の定、なかなか入居者が集まらず、入居してもすぐに引越してしまったりして、何度かオーナーが変わってリニューアルしたりもしたみたいだけど、結局は無人の廃墟となってしまったのだそうだ。
誰が呼んだか、『お化けマンション』なんて言葉も聞いた事がある。

「出るらしいですよ」

私の目を見つめながら日吉くんが言った。
ああ……やっぱりそうなのか……。

「昔、あそこの駅前に地下街を作る予定だったのが途中で計画が頓挫して、中途半端に掘り進められた地下通路がそのまま放置されているそうです」

「えっ、危なくないの?それ。だって地面の下に空洞があるってことだよね?」

「まあ、何しろ地下なんで見た目にはわかりませんからね。自分達が生活している足元に空洞があるという事で、初めは気にしていたとしても、時間が経つにつれて意識しなくなるのは不思議じゃないでしょう。人間の記憶力なんていい加減なもんですよ」

「うーん…そういうものなのかなぁ…?私ならきっとずっと気になったままで安心して住めないけどなぁ」

日吉くんは唇をゆがめて、ふっと笑った。

「なまえ先輩はビビりですからね」

「うっ…」

「──で、その地下通路なんですが、実は近所にある寺の下を通ってそのマンションまで続いているそうです。どうも無縁仏を集めた墓地の下を『中身』を移動させないまま掘り進めたらしくて、それが怪奇現象を起こしているんじゃないかという話でした」

「ええっ!?うそでしょ、だって、そんなことしたら…」

「“だから”、ですよ。地下街の工事中に事故が多発したのは祟りのせいじゃないかと当時はかなり話題になったみたいです」

日吉くんの口ぶりからして、色々調べたんだろう。

「ああ、すみません。かき氷食べていいですよ」

日吉くんはニヤニヤ笑っている。
私が別の意味で寒気を感じて鳥肌を立てている事に気が付いていてそう言っているのだ、このキノコは。

「…日吉くんが興味があるのって、学校の七不思議だけじゃなかったの…」

「一番はそれです。ただ、都市伝説や心霊スポットの真相解明にも興味があるんで、情報収集だけは怠らないようにしてます。残念ながらこの辺ではそういう噂は聞きませんね」

日吉くんは残念そうな顔で言った。
もしも近くに心霊スポットがあったら間違いなくとっくに突撃していただろう。

「今度、俺と一緒に探しに行きませんか、墓地の下の地下通路。廃墟になってるマンションに入口があるそうなんで」

「行かない!!」

かき氷はすっかりとけて赤い水と化していた。



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