緑色のフェンスの向こう側に、見慣れた、けれどもここにいるはずのない姿を見つけて観月は驚いた。 僅かに目を見張り、すぐにそちらへ足を向ける。 そこには一人の少女が佇んでいた。 「暑いから来なくていいと言ったのに…」 「平気だよ。はじめちゃん達のほうが暑いなか練習で大変でしょ」 なまえは持っていたビニール袋を観月に渡した。 「はい、差し入れ」 「ありがとうございます」 中身の検討はついている。 実家から送られてきたさくらんぼだ。 その二人の様子を離れた場所から見ていた裕太が赤澤に尋ねる。 「もしかして観月さんの彼女ですか?」 「いや、観月の従妹だ」 「いとこ…?」 裕太は首を捻った。 不思議に感じたのは、観月は血の繋がりがあるからと言ってもそれだけで親しく付き合うタイプの人間ではない気がしたからだ。 「少し早いですが切り上げましょう」 観月の言葉で練習は切り上げられた。 素早く後片付けをして、部室に入って行く。 「裕太くん?」 「えっ!?」 「あ、ごめんね。はじめちゃんがいつもそう呼んでるから」 「い、いえっ、平気です!」 なまえに名前を呼ばれた裕太は赤くなって慌てた。 「何をデレデレしているんですか」 呆れた声で言って観月がさくらんぼを皿に取り出し、飲み物の用意をしていく。 「私も手伝う」 「じゃあ、グラスを用意して貰えますか。そこの棚に入ってますから」 「この棚だね」 「あーあ、観月のやつ甘ったるい顔しちゃってさぁ」 「紅茶で例えるなら砂糖五杯は確実に入ってるだーね」 「やめて下さいよ!紅茶に砂糖入れるたびに思い出しちゃうじゃないですか!」 裕太が悲痛な声で訴えているのがなまえにも聞こえてくる。 なまえに聞こえるということは勿論観月にも聞こえているということだ。 「んふっ…裕太くんはまだ体力が有り余っているようですね」 「あ、いえ…」 途端に青ざめる裕太に、部室の中にいた部員達の笑い声が響いた。 |