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「わっ!」

油断していたら強烈なサーブが来て、なまえは思わずビクッとなってしまった。
当然、ボールは遥か後方へ。

それまで手加減していたとは言え、不意打ちでサービスエースをとったリョーマは涼しい顔をしている。

「まだまだだね」

「やっぱりリョーマくんは強いね」

「まあね」

「あはは、そこで認めちゃうんだ」

「少なくともアンタよりは強いのは間違いないよ」

リョーマはなまえが投げたボールを片手でパシッと受け止めて笑った。
強い相手と試合をしている時の不敵な笑い方に似ている。
そうか、みんなコレにころっといっちゃうわけか、となまえは笑った。

「今ちょっとだけ朋ちゃん達の気持ちが分かった気がする。リョーマくんって時々カッコいいよね」

「時々?いつもの間違いじゃないの」

「まだまだだね」

リョーマの口癖を真似して言えば、ムッとした顔をされた。
そうやってムキになるところがやっぱりまだ子供っぽいと思う。

「あー!おチビ!」

突然聞こえてきた声に、そちらを向くと、ストリートテニス用のコートと歩道を隔てるネットの向こうに菊丸が立っていた。

「デートなんてずるいにゃ!」

なまえはびっくりして菊丸を見た。
デート?
いやいや、そんなまさか!
ぶんぶん首を横に振って否定する。

「いえ、デートじゃなくてテニスです!」

「…アンタって、ほんと天然…」

リョーマのためにも誤解をとかなければと思って言ったのに、そのリョーマ本人に何故か呆れられてしまった。

菊丸は用事の途中だとかで、名残惜しそうにしながら去って行った。
それを機に、二人はテニスを切り上げて、自動販売機でそれぞれ飲み物を買った。
リョーマはいつものファンタグレープ。
なまえは無難にスポーツドリンクを。

「家、どの辺だっけ?」

ファンタを飲みながらリョーマがぼそっと呟いた。

「家?」

「遠かったら送ろうと思っただけ。アンタも一応女子だし」

「一応は余計だよ!でも、ありがと。途中まで送って貰ってもいい?」

「ん…」

暫く二人は無言で歩いた。
夕日に照らされているせいでリョーマの頬が赤く染まって見える。
たぶん自分の顔もそう見えているんだろうなとなまえは思った。

「ここでいいよ、リョーマくん」

「そ。じゃあね」

リョーマはなまえと反対側の道に足を向けた。
歩き去りながら片手をあげる。

「じゃ、また学校で」

「うん、また学校で」

きっと明日になればテニス部全員にこの事が知れ渡っているだろう。
でも、リョーマはいつも通りクールな態度で流すに違いない。
いつかその余裕を打ち砕いてみたいと思うが、何となく勿体無い気がして、暫くは今のままでもいいかなと思うなまえだった。



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