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部活帰りに突然飛ばされた異世界。

この世界で“はじまりの森”と呼ばれている場所に私達はいる。
最初は明るかったけれど、奥に進むにつれ、木々が落とす影のせいで暗く不気味な雰囲気を感じるようになってきていた。

敵が雑魚ばかりなのが救いだ。
まだ戦い慣れていない私達にとっては、最初の経験値稼ぎに最適な場所であると言えるだろう。
どんどん先に進みたがる向日くんと宍戸くんを宥めて時間をかけて戦闘を繰り返したお陰で、それなりにレベルも上げられた。
たぶん最深部にはこのエリアのボスがいるはずだから、そこに辿り着く前にある程度レベルアップしておいたほうがいいと判断してのことだ。

「跡部くん…なんだかすごくサマになってるね…」

「アーン?当たり前だろ」

俺様を誰だと思ってる。
そう言って不敵に笑う跡部くんは、きらびやかな鎧姿で、その背には彼の瞳と同じ鮮やかなブルーのマントが翻っている。
利き手にはラケットではなく聖なる力を持つという剣が握られている。
この世界に飛ばされて私達が最初に辿り着いた町。
そこで、“まことの王にしか抜けない剣”を跡部くんが引き抜いたことで、彼は伝説の勇者様に祭り上げられてしまったのだ。
なんでもその剣は魔王を倒せる唯一の武器であるらしい。
つまり剣の持ち主だけが魔王を倒すことが出来る、この世界の人々が待ち望んでいた伝説の勇者だというわけだ。
少なくとも町の人達はそう信じていた。
町で道具や装備を整えた私達は、そんな人々の期待の声に背を押される形で魔王討伐の冒険へと旅立ったのだった。

こっちに来てからおめめぱっちりでワクワクしまくっている芥川くんや、リアルRPGの世界だと張り切っている向日くん達はかつてないほど生き生きとして見える。
冷静に色々考えていそうな忍足くんとは違って、純粋に今の状況を楽しんでいるようだ。

彼らは不安にならないのだろうか。

もしかしたら元の世界に帰れないかもしれない……そんな事を考えたりはしないのだろうか。

私は怖くてその考えを口に出すことすら出来ない。

「お前は考え過ぎなんだよ」

私の心を見透かしたように跡部くんが言った。

「今自分に出来ることをしろ。最善を尽くせ。それが結果に繋がるはずだ」

「跡部くん…」

「大体、一人で迷子になったわけじゃねえだろうが。仲間を…俺を信じろ」

「…うん!」

ちょっとだけ涙が出そうになったのをグッと堪えて頷く。

そうだ。
私は一人じゃない。
皆が一緒なんだ。
自分に出来る最善を尽くして皆と一緒に頑張ろう。

「どうやら、おでましのようだぜ」

いつの間にか周りの雰囲気が一変していた。
拓けた場所で、いかにもな雰囲気の中、いかにもな見た目のモンスターが前方で私達を待ち構えている。

「行くぞ!」

跡部くんの声に皆の返事が重なる。
私も武器を構えてブルーのマントの背中を追って走った。


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