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「こんにちは」

「にゃー」

「今日も元気そうだね」

「にゃー」

「煮干し食べる?」

「にゃー」

差し出した煮干しをしゃくしゃく食べ始めた猫を微笑ましく思いながら見守っていると、不意に背後に気配を感じた。
ハッと振り向けば、茂みの外に佇む男子が一人。
銀髪のその彼はテニス部の仁王雅治だった。

「あ…えっと…これはその…」

実はここ立海の敷地内での野良猫への餌やりは禁止されている。
なまえがこの中庭で猫に餌を与えていたのは事情があってしていたことだが、それを説明する前に仁王が口を開いた。

「猫と話せるんか…!」

キラキラと瞳を輝かせた仁王から出た台詞は予想外のものだった。



「…というわけで、この子は何を話しかけてもにゃーって返事するの」

「なんじゃ。そういうことか」

猫は一声鳴いて仁王の手に身をすり寄せた。

「大分懐いてくれたから、そろそろ家にお迎えしようかなと思ってたところ」

「連れて帰るんか」

「うん。そのためにずっと餌あげて懐かせてたんだもん」

「寂しくなるのう」

「仁王くんもこの子のこと気に入ってたの?」

「おん」

そういえば、仁王によく懐いている。
もしかすると仁王もこっそり餌をあげていたのだろうか。

「仁王くんが連れて帰るならそれでもいいよ」

「いや。うちでは飼えんから、気にしなくていいナリ」

仁王は猫を指でじゃらしながら薄く笑った。

「それに、おまんのほうが飼い主に相応しいぜよ。お似合いじゃ」

「えっと…それじゃあ…」

なまえが思いついた提案を口にすると、仁王はちょっと目を丸くして、それから笑みを見せた。


* *

「ただいまー」

なまえが玄関に入ると、早速飼い猫のユキがお出迎えしてくれた。

「この子はユキって言うの」

「名前通り雪のような色白の美人さんぜよ」

なまえの後ろから入って来た仁王がユキを抱き上げる。
人懐っこいユキは嬉しそうに喉を鳴らしてされるがままになっている。

「性格も良さそうじゃの」

「うん、優しい子だから新しい子とも上手く付き合ってくれると思う」

上がって、と仁王に促し、リビングに案内する。

「コーヒーでいいかな?」

「おん」

なまえはケージをソファの横に置くと、お茶の用意をしにキッチンに向かった。
念入りに手を洗ってからコーヒーを淹れる。

リビングに戻ると、ユキを膝に乗せた仁王がゆっくりと辺りを見回していた。
少し細められた目が猫みたいだ。

「居心地が良さそうな家で良かったナリ」

「ありがと」

「俺も時々来てもええか?」

「うん、もちろん。仁王くんも会いたいもんね」

ねー、とケージを開けて中の猫に話しかければ、にゃーと答えが返ってくる。

「間違いのようで間違いじゃないが…まあ、いいぜよ」

仁王が苦笑したのを見て首を傾げるなまえに、もう一度にゃーと返事が返ってきた。


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