ドイツ語には男性名詞女性名詞に加えて中性名詞が存在する。 男性名詞der ワイン 女性名詞die 牛乳 中性名詞das 野菜 といった具合に。 「女性名詞と中性名詞は1格と4格でも変わらないんだよね?」 「そう、男性名詞だけです」 「う〜わかりにくい…」 「覚えてしまえば簡単ですよ」 はじめちゃんはそう言うけれど、その覚えるまでが大変なのだ。 これだから頭のいい男は…と、私は従兄を恨めしげに見つめた。 やっぱりドイツ語なんてとらなければ良かった。 じゃあ、何処の国ならいいのかという話になるが、どれも難易度は変わりなさそうではある。 つまり問題は私の脳みその働き次第なのだ。 「chen、leinで終わるものは中性名詞になると覚えれば分かりやすいでしょう」 「chenとかleinって、『小さいものや可愛いもの』を表す縮小語尾だっけ?小さいものや可愛いものは中性ってこと?」 「まあ、大雑把に言えばそうなりますね」 「じゃあ、小さい頃のはじめちゃんは中性名詞?」 「怒りますよ」 真顔で怒られてしまった。 「『少女』は中性名詞ですが、『少年』は男性名詞ですよ」 「えー」 「えーじゃありません。そうなってるんです」 「じゃあ、これわかる?」 丁度テーブルの上にあったはじめちゃんのフランス語のテキストをパラパラと捲り、あるページまで来たところでそこに書かれている文章を読み上げる。 「Je suis heureuse avec toi」 「“貴方といると幸せです”」 はじめちゃんは小さく笑った。 「では、これはわかりますか?」 その唇から流暢なフランス語が流れ出る。 「Je suis heureux avec toi」 「“君といると幸せです”」 「んふっ、正解です」 愛を語るのに国境はあまり関係ないようだ。 |