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赤に黄色、それに橙色。
眼下に広がるのは、美しく紅葉した秋の山並み。

「美しいな。素晴らしい眺めだ」

「そう…だね…」

蓮二に付き合ってハイキングコースを登って来たため、すっかり息がきれてしまった。
運動不足なのは自覚している。
膝に手を突いて肩で息をしている私に対して、蓮二は息を乱してもいない。
いくらスポーツをやっているからといって、あまりにも体力が違い過ぎるのではないだろうか。

「お前がギリギリついて来られるペースで歩いたのだが、予想通りだな」

などと言われてはさすがにちょっと悔しい。

でも、そこは紳士な蓮二のこと。
すぐに私をベンチに座らせて冷えたスポーツドリンクを飲ませてくれた。

「ありがとう」

「いや、無理をさせて悪かった」

タオルで汗を拭き終わる頃には、早くも涼しさを感じはじめていた。
それをまるで見計らっていたように蓮二が厚手のストールを掛けてくれる。
至れり尽くせりだ。

「寒ければ上着も貸すが」

「ううん、大丈夫」

自分の上着まで脱いで貸してくれようとしたのを断って、改めて景色へと目を向けた。
蓮二の言う通り、素晴らしい眺めだ。
この展望台からは山の紅葉が一望出来る。

「綺麗だね」

「ああ」

「連れて来てくれてありがとう」

「それはこちらの台詞だ。付き合わせてしまってすまない」

「ううん、一緒に紅葉が見られて良かった」

「…そうか」

紅葉を見に行かないかと誘ってくれた蓮二には感謝している。
それは確かに疲れたけれど、その疲れも吹っ飛ぶくらい美しい景色には価値があった。

「お弁当作って来たの。食べよう」

「ああ、ありがとう」

実は期待していた、と嬉しそうに言われては、こちらも嬉しく思わずにはいられない。

「ご期待に添えるといいんだけど」

「お前の手料理ならば問題ない。毎日でも食べたいくらいだ」

「それじゃあまるでプロポーズに聞こえるよ」

「そのつもりだが」

おにぎりを食べ始めた蓮二は、憎らしいほど涼しい顔をしている。
どんな顔をしていいかわからないまま私もおにぎりにかぶりついた。

「返事は?」

「んぐっ」

まさか答えを迫られるとは思わなかったのでむせそうになってしまった。

「蓮二のばか!」

「ひどいな」

蓮二はおかしそうに笑っている。
明らかに私の反応を楽しんでいるのだ。
ひどいのはどっちだ。

「もっとロマンチックなシチュエーションでちゃんとしてくれなきゃやだ」

「なるほど」

春巻きを食べる蓮二の箸使いが綺麗だ。
ぴんと伸びた背筋も美しい。
ドキドキする胸を押さえると、その手に蓮二の手が重なった。

「では、万が一にもお前が断れないような完璧なシチュエーションを用意するとしよう。覚悟しておけよ、なまえ」

やっぱり蓮二はひどい。
私の頬まで赤く色づかせてしまうなんて。


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