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卒業式はまだわかる。
しかし、日本の学校でプロムをやるというのはどういうことなのかと問い正したい。
どうもこうも、全ては跡部景吾のせいなのだ。

中学の時と同じく、高校でもテニス部の部長であると同時に生徒会長でもあった彼は、会長権限で新しく卒業行事の一環としてプロムを制定してしまったのである。

「着ていく服がない…」

パーティードレスがない。
それが問題だった。

一着あるにはあるのだが、それはクリスマスパーティーの時に着てしまったので、まさか同じものを着ていくわけにはいかないだろう。
やっぱりレンタルしかないかな。

「なんだ、そんなことで悩んでいたのか」

私の悩みは跡部くんによって一蹴された。

「俺に任せておけ。ドレスくらいすぐに用意してやる」

というわけで、車で連れて来られたいかにも高級そうなお店で、私は着せ替え人形と化していた。
もちろん最初は自分で選ぼうとしたのだ。
しかし、跡部くんに次々に却下されてしまい、結局跡部くんのセンスに頼る羽目になったのである。

「お前は自分に似合う色やデザインが分かってねぇ。いいから俺に任せな」

「ハイ」

跡部くんはその眼力で、スリーサイズばかりか私の骨格までお見通しなわけで、彼の言う通りまだ自分に似合う服のいろはも分かっていない小娘としては、大人しくお任せするしかなかった。

「色は青だ。──違う、それじゃねぇ。もっと鮮やかなのを持って来い」

「こちらはいかがでしょう?」

「悪くねぇな。あとはデザインだが……」

そうして、何着か色見本用のドレス、デザイン見本用のドレスと次々に着替えさせられた私は、終了する頃にはぐったりと疲れきっていた。
しかし、その甲斐はあった。

「ようやく決まったな。それで頼む」

「かしこまりました、景吾様」

跡部くんが選んだドレスの色は、上質のパライバトルマリンだけが持つ、輝くようなブルー。
デザインは、前面こそ慎ましやかで露出は控えめだが、後ろ側は大胆に大きく背中が開いたもの。

「これをお前のサイズで作らせる。プロムの前には完成させるから安心しろ」

「ありがとう、跡部くん。でも、こんなに高そうなドレスだと代金が払えるか心配で」

「俺が自分のパートナーにドレスの代金を払わせる男に見えるのか?プレゼントするに決まってるだろ、バーカ」

「あ、跡部くん?」

「俺様としたことが、大事なことをまだ言ってなかったな。……お前に正式に申し込む。俺のパートナーとして俺とプロムに出てくれ、なまえ」

「えっ、あのっ」

「嫌とは言わせねぇ。この跡部景吾が直々に申し込んでるんだ、返事はイエスしか受け付けないぜ」

「えっと……」

「アーン?」

「よ、よろしくお願いします」

「フン、それでいい」

押しきられてしまった。

でも、嫌じゃないのは何故だろう。

ドレスと同じ、パライバトルマリン・ブルーの瞳を見上げながら、私はそっと微笑んだ。

強引だけど、優しくて面倒見がいいところが好きだよ。跡部くん。


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