男子テニス部は今日も部活に励んでいる。 春休みまで部活だなんて大変だなと思っていたら、手伝いに駆り出された。 それは構わないけど、蓮二の分のお弁当まで持たされたあたりに母親達の陰謀を感じずにはいられない。 「蓮二くんによろしくね」 妙に気合いの入ったお母さんに送り出されてやって来た学校では、前回と同じく大量の雑用が待っていた。 いつもはそれを担当している一年生部員達から感謝の言葉を捧げられれば、悪い気はしない。 忙しくてもやり甲斐のある仕事だ。 「苗字さん」 ボールを拾ったり、磨いたり、必要な道具を出したりしまったりと、一生懸命雑用をこなしていると、幸村くんに声をかけられた。 「悪いけど、蓮二を呼びに行って貰えるかい?」 「蓮二どうしたの?」 「生徒会の用事で少し抜けていたんだけど、ちょっと時間がかかりすぎているから様子を見て来て欲しいんだ」 「わかった、任せて」 「ありがとう。頼んだよ」 練習に戻って行く幸村くんの背中を見送る。 彼は動きが鈍い部員に檄を飛ばして、自分もすぐにハードな練習を始めた。 皆の目はもう既に夏の大会を見据えている。 備えるのに早すぎるなんてことはないんだと、彼らを見ていると思う。 それと同時に、特にこれといった目標もなくただ日々を過ごしている自分が少し情けなくなった。 というか、うじうじ悩んでいる場合ではない。 早く蓮二を呼びに行かなければ。 頼まれていた仕事を大急ぎで片付け、蓮二を探すべく生徒会室のある校舎に向かって走る。 しかし、校舎の中に入るまでもなく蓮二は見つかった。 ちょっと人目につきにくい、校舎脇の花壇の所に背の高い蓮二と、彼の前に立っている女の子の姿があったからだ。 「入学した時からずっと好きでした。私と付き合って下さい。お願いします!」 そんな女の子の言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。 すぐに方向転換してまた走り出す。 誰もいない部室棟の裏まで来ると、突然息苦しさを感じてその場にうずくまった。 頭ががんがんしている。 蓮二がモテるのは知っていたし、何度か呼び出されて告白されているのも知っていた。 でも、実際に女の子に告白されているのを見たのは初めてだった。 だからだろうか。 自分でも思ってもみなかったほどショックを受けているのは。 「なまえ」 砂を踏む音がして、背中から大きなあたたかいものに包み込まれた。 蓮二だった。 蓮二に後ろから抱きしめられている。 「すまない。あんなところを見せるつもりはなかったんだが……悪いことをしたな」 走って来たのか、呼吸こそ乱れてはいなかったが身体が熱い。 「知らない。なんでこっちに来たの」 「お前が逃げるからだ」 「別に平気だよ。蓮二が誰に告白されてたって、誰と一緒にいたって、私は別に──」 「なまえ」 耳元で低い声で名前を呼ばれて、私は黙った。 「俺も、お前が他の男と話していると嫉妬する」 「嘘だぁ…」 「嘘じゃない」 私の顔が熱いのは、私を抱きしめている蓮二の身体が熱いからだ。 別にこんなことで泣きそうになっているからじゃない。 「我慢するくらいなら泣いてくれ。そうしたら慰めてやれる」 「…蓮二のばかぁ」 「そうだな。悪かった」 「お弁当作ってきたけどあげない」 「それは困る」 「他の女の子と仲良く話さないで」 「努力しよう」 「蓮二のばかぁ」 「そうだな。悪かった」 いつの間にか向きを変えられて、正面から抱きしめられていた。 「俺が好きなのも、欲しいのも、お前だけだ、なまえ」 蓮二が濡れた目元にそっとキスをしてくるから、またぽろぽろと涙が零れた。 |