「雅の呼吸 弐ノ型 空蝉」 とん、と軽い音を立てて鬼の頭部が地面に転がる。 以前外国人居留地で見たテニスボールのように。呆気なく。 あっという間のことで、頚を斬った瞬間さえ見えなかった。 「怪我はないか?」 「う、うん。大丈夫」 広い背中に大きく滅の文字。 黒い隊服が長身で程よく引き締まった体躯に良く似合っていて、彼を一層魅力的に見せていた。 「疲れただろう」 柳くんが言った。 「来る途中に見かけた茶屋で一息入れていかないか」 「そういう柳くんは全然疲れてないね」 「鍛えているからな」 これにはちょっとカチンときた。 私だって鬼殺隊の隊士だ。 それこそ血の滲むような努力をしてきたのに、これでは私の努力が足りないと言われているようではないか。 「気を悪くしたならすまない。俺の言い方が悪かった。男女の身体の違いもあるだろう。あまり気にするな」 そう素直に謝られてしまっては怒るに怒れない。 いつまでもヘソを曲げているような子供ではないのだ。 「いいよ。それより早くお茶屋さんに行こう」 「そうだな」 柳くんの口元に淡い微笑が浮かぶ。 「なに?」 「いや、可愛いと思っただけだ」 「か、からかわないで!」 「からかってなどいない。お前はとても可愛らしい」 「や、やめてよ!」 異性にそんなことを言われたのは初めてだった。 どうしていいかわからず、柳くんを振り切るように早足になる。 しかし、歩幅の違いのせいで容易く追い付かれてしまった。 「そんなところも愛らしいな」 「や、やめてったら!」 すっと背筋の伸びた流麗な佇まい。 涼しい顔をして鬼を斬るくせに、いま浮かべている優しい微笑みはどういうことなのか。 知りたいような、知りたくないような。 初めての甘い葛藤に悩まされながら歩む先には、くだんの茶屋があった。 「すみません、お茶を下さい」 「はいはい、ただいまお持ちします」 救われたような気持ちで縁台に腰を降ろして息をつく。 ここで、これでもかと口説かれることになるのも知らずに。 |