跡部財閥の御曹司で、200人以上の部員を抱える男子テニス部の部長で、生徒会長でもある景吾くんの日常は多忙を極める。 もちろん、そんな忙しい日々の中でも趣味や休息に割く時間はきっちり確保している辺りがさすがの跡部様だと思う。 そんな景吾くんのお荷物にはなりたくないので、わざわざ時間を見つけては私の世話を焼いてくれようとする彼に対して、私には気を遣わなくていいからとお願いしてあった。 ──のだが、スパダリ度がカンストしている景吾くんはそれでも許嫁である私を大切にしてくれようとするので困っている。 いわゆる嬉しい悲鳴というやつである。 「明日はデートに連れて行ってやる」 就寝前のご挨拶に赴いた私に、湯上がりでバスローブを纏ってシャンパンを味わっていた景吾くんは私をひょいと自分の膝の上に抱き上げてそうのたまった。 いい匂いがするし、景吾くんの引き締まった体躯がよくわかって恥ずかしい。 「い、忙しいんだから、いいよ!貴重な休みはちゃんとお休みして身体を労ってあげて」 「この俺様がそんなヤワな男だと思ってるのか、アーン?」 どうやら私の発言がかえって火をつけてしまったらしい。 「明日は徹底的に甘やかしてやるから覚悟しろよ」 それが昨夜のこと。 翌朝は、その予定を聞いて使命感に燃えたメイドさん達によって朝も早くから徹底的に磨き上げられるはめになってしまった。 まずはお風呂。 大浴場もかくやと思われる広さの豪華なバスルームで、髪はもちろん、高級な石鹸をこれでもかというほど泡立てて隅々まで身体を洗われた。 そうして水分を丁寧に拭き取ってからマッサージされ、これまた高級なボディクリームを全身にすり込まれた。 総レースの下着を身に付けさせられたと思えば、何着もの服をあれでもないこれでもないと次々に着替えさせられて、やっと決まったところでドレッサーの前に座らされた。 化粧水、美容液、乳液を顔に塗られ、メイドさん渾身のメイクが施されていく。 その間に髪を弄られ、自然な巻き髪にされた。 「さあ、お早く景吾様のところへ」 メイドさん達に急かされて朝食をとりにダイニングルームへ向かうと、ちょうど景吾くんも入って来たところだった。 「お、おはよう」 「Good morning」 完璧なキングイングリッシュで挨拶を返した景吾くんはおもむろに私の髪を一房手に取ると、そこにキスを落とした。 「随分めかしこんできたな。俺とのデートがそんなに楽しみだったのか?可愛いじゃねーの」 「な、な、」 「ん?こっちにしたほうが良かったか?」 真っ赤になって固まってしまった私の唇に景吾くんがキスをする。 ちゅっ、と唇を合わせてから、ついばむようにはむはむと。 壁際に並んで控えているメイドさん達がにこにこしながらその様子を見守っているのが見えたと思ったら、後頭部に手を添えられてしっかりと唇を重ね合わされた。 「余所見してんじゃねえよ。俺だけを見ていろ」 パライバトルマリンを思わせる青い瞳に射抜かれて、右目の下に泣き黒子がある美しい顔に釘付けにされる。 私の未来の旦那様が朝からセクシー過ぎてどうしよう。 |