蝉時雨という言葉があるが、今年はまだ蝉の鳴き声を聞いていない。蝉が鳴き始める前に本格的な夏が来てしまった感じだ。 部活が終わった後、蓮二のお母さんが用事があるとかで柳家に寄ることになった。 「あらあら、やっぱり良く似合ってるわ」 蓮二のお姉さんの御下がりだという浴衣を着せられ、先に帰宅していたお姉さん達にまで「なまえちゃんはもう立派なうちのお嫁さんね」などとからかわれてしまった。 「これほんとに頂いていいのかな」 「貰ってくれなければ困る。言い出したら聞かない人達だからな」 いまは蓮二と並んで縁側に腰掛けて、お夕飯の後に出されたかき氷を食べているところだった。 湯上がりの蓮二は浴衣を着ていて、その顔立ちや佇まいも相まって尚更涼しげに見える。 高校生になって蓮二は変わった。髪型だけじゃなくて、何というか芯に近い部分が。 何がと聞かれると困ってしまうのだが、元々あった才能や魅力といったものがより洗練された感じと言えばわかるだろうか。 「かき氷美味しいね」 「そうだな」 練乳がかかったいちごミルクのかき氷は甘くて冷たくて、火照った身体を冷ますのにちょうど良かった。それはともかく。 「私を見てないで、お庭を見て」 「可愛くて堪らないといった目でお前を見るなというのなら、それは無理な話だ」 「やめて恥ずかしい……!」 いたたまれなくなって両手で顔を隠すと、隙ありとばかりに首筋に唇を押しあてられた。そのまま薄い皮膚を吸われる。 「ひん!」 身体がびくっとなって、思わず手を下ろしてしまう。すると、蓮二は今度は堂々と私の唇を奪いにきた。ちゅぱっと濡れた音を立てて離れた唇が笑みを形造る。 「甘いな」 「蓮二のばかっすけべっ」 「夏だからな。仕方がない」 惹かれてやまないのを夏のせいにして。 少しだけ暑さのぬるんだ夜が更けていく。 |