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氷帝の夏が終わった。
もちろん、カレンダー上ではまだ夏真っ盛りなのだが、テニスにかける彼らの夏は敗北という形で終わってしまった。
敗者復活からのギリギリ勝負での敗けだったので悔しさもひとしおだろうと思っていたのだけど、案外みんなさっぱりした顔をしている。
でも、私達三年生はこれで終わり。後は後輩達に引き継いで貰うしかない。

「結局、テニステニスで今年も夏らしいこと何もしなかったな」

「そういえば、さっきらから向日くんの後ろに白い服の女の人が」

「や、やめろよ!その手には引っかからねえからな!」

「あれ?消えた」

「や、やめろって!」

「今日お風呂入った時に会えるかもね」

「お前マジでそういうとこだぞ!」

日吉くんが悪い顔をしてニヤニヤ笑っている。宍戸くんと鳳くんもやれやれといった風に顔を見合せていた。

「でもさ、やっぱり夏らしいことしたいよね」

慈郎くんが言った。珍しくおめめがぱっちり開いている。

「みんなでプールに行くとか?」

「そこはやっぱ海だろ」

私の提案に宍戸くんが乗ってきてくれる。
確かに宍戸くんには海のほうが似合いそうだ。

「良かったら、俺の別荘に来ませんか?プールもあるし、海の近くなのでどっちも遊べますよ」

おお、さすがお坊っちゃま。

「お前ら、何やってんだ?あーん?」

鳳くんの申し出に皆で盛り上がっていたら、生徒会の用事を終えたらしい跡部くんが戻ってきた。
私がこれまでの経緯を説明すると、跡部くんは「なるほどな」と笑った。

「そういうことなら俺様に任せな。南の島にあるプライベートビーチに招待してやるぜ」

「マジかよ」「やったー!」とはしゃぐ皆を跡部くんは穏やかな笑みを浮かべて眺めていた。そうだよね。このメンバーで遊ぶ夏はこれが最後になるかもしれないんだよね。感慨深くもなるよね。

跡部くんは留学してしまうという噂もあるし。

「夏はまだまだ終わらねえ。夏を楽しみたいやつは俺様についてきな」

指パッチンをした跡部くんに、皆が歓声をあげる。

「なまえさん」

「ん?鳳くん、どうしたの?」

「跡部さんのとは別口で、俺の別荘にも来て貰えませんか?」

「えっ、いいの?」

「なまえさんなら大歓迎です」

「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えさせて貰うね」

「お礼を言いたいのは俺のほうです。なまえさんとの想い出作りが出来て嬉しいです」

「おい、堂々と抜け駆けするな」

日吉くんがラケットで鳳くんの腰をパシッと叩く。

「わかってるよ。不可侵条約だろ」

「なまえさん、俺と心霊スポットに行きませんか?もちろん二人きりで」

「えっ、それはちょっと怖いかも」

「幽霊がですか、それとも俺と二人きりだからですか」

「日吉くん?」

「おい、日吉。不可侵条約」

今度は鳳くんがラケットで日吉くんをつつく。

「何してる、なまえ。早く来い」

「あ、うん」

跡部くんに呼ばれて側まで行くと、頭をぽんぽんと軽く叩かれた。

「勝手に俺の側から離れるな」

その様子を見ていた日吉くんと鳳くんがギリギリしていたことも、宍戸くんがやれやれと笑っていたことも、私は気付かずにいた。


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