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今年の夏、青春学園男子テニス部は、遂に全国大会優勝という偉業を成し遂げた。
元から人気があった部員達の評価は更にうなぎ登りで、以前からのファンに加えて新たなファンも随分増えたらしい。

熱烈なファンの中でも、特に三年生女子などは、そういった新規のファンを『にわかファン』としてあまり良く思っていない者もいるという話だった。
自分達は三年間ずっと彼らを応援してきたのに、今頃になってキャーキャー言いはじめるのはミーハーで許せないのだとか。

新学期が始まってすぐの頃は、まだお祭りムードのお陰でそれほど目立った衝突は見られなかったのだが、秋も深まってきた最近では、テニスコート脇のギャラリーの中で、昔からのファンと新規ファンの間でギスギスした空気が漂う事が少しずつ増えてきていた。

そんな折、来月11月に男子テニス部が高校日本代表候補のための合宿(キャンプ)、通称U-17に招集される事が発表され、またもや校内は沸き立ったのだった。


「U-17って、高校生だけじゃなかった?」

「ああ。今まで一度も中学生が招集された事はなかったが、今回のみの特別措置らしい」

「すごーい!さすが手塚くんだね!」

U-17行きが発表されて以来幾度となく繰り返してきたであろう説明を、男子テニス部の部長である手塚は嫌な顔ひとつせずに律儀に繰り返している。
相手の女子は『にわかファン』の一人だ。
教室の後ろ側では、同じく男子テニス部の不二周助が女の子達に囲まれていた。

「嬉しいけど、複雑……」

椅子の向きを変えて後ろの席の七海の机に頬杖をついていた友人が、言葉通り複雑そうな表情で呟いた。
彼女は一年生の時からのテニス部ファンで、やはり新規ファンをよく思っていない人間の一人だった。

「知ってる?あの子、夏休みの前までサッカー部の追っかけやってたんだよ。それが二学期になってから突然、手塚くん、手塚くんってさ」

ムカつく、と顔をしかめる友人を、七海はまあまあと宥めた。

「そういう子なら、今は一時的に盛り上がってるだけだろうし、その内また違う人が気になりはじめるんじゃない?」

「そんな事になったらますます許せんわ」

憤然と言い放った友人の気持ちは七海も分からなくもない。
いわゆる『にわかファン』の子は、ちょっと遠慮がないというか、慣れなれしい行動が目立つのだ。
今まで男テニのファンの女子達が作ってきた暗黙のルールというものが全く通用せず、相手の迷惑など考えずに積極的に部員達に接触していく姿は、ちょっとこれは酷いなと感じる事も多い。
不快とまではいかないが、なんだかなぁと思ってしまう。



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