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休み時間を使い、他のクラスの友達の所へ友チョコを渡しに行って戻って来ると、教室で惨劇が起こっていた。
苦悶の叫びをあげながら床の上でのたうち回っているのは菊丸くんと桃城くんだ。
その傍らでオロオロしている大石くんと、冷静に観察している乾くんの姿が対象的だった。

「だから止めたのに…」

困ったような表情で彼らを見ている不二くんと、彼が手にしたチョコの箱に新たに出来ていた二つのスペースを見て、大体の事情は把握出来た。

「不二くんにあげたチョコ、食べちゃったの?」

「ボクは止めたんだけどね」

「七瀬、これは一体……」

「菊丸くんが食べたのは唐辛子チョコ、桃城くんが食べたのはわさびチョコだよ」

喉をかきむしっている菊丸くんの唇の回りが真っ赤になっていたので、彼が何を食べたのかはすぐに分かった。
そうなると、桃城くんが食べた物も自ずと判明する。

「俺は試作品の段階で試食させて貰ったが、罰ゲーム用を通り越して毒殺を狙っているのかと思う辛さだったな」

「乾……頼むから、乾汁には入れてくれるなよ……」

大石くんが胃のあたりを押さえながら呻いた。
優しい彼は自分の心配ではなく部員の身を案じているのだろう。
中学生の今から胃薬が手放せない彼のデリケートな胃腸が激しく心配だ。
将来社会人になったら、なるべくストレスの少ない環境で働けるといいのだけど。

「そんなに辛い?どっちもすごく美味しいよ」

不二くんがチョコを指で摘まんで口に運ぶ。
平然と食べるその様子を、大石くんはちょっと青ざめながら見ていた。
指についたチョコを舐めて、不二くんが「うん。やっぱり美味しい」と笑う。

「その…七瀬は作ってて平気だったのか?」

「ゴーグルとマスクとゴム手袋着用のフル装備で作ったから大丈夫」

「…味見はしたんだよな?」

「ううん、してないよ。と言うか普通の人間には無理だよ。不二くんに合わせてるんだから」

何十倍どころではない。
味見しただけで舌や食道や胃袋はもちろんのこと、翌日のトイレでお尻の何処とは言えない部分が大変なことになるレベルの辛さなのだ。

「あ、でも、愛情は目一杯詰め込んであるからね、不二くん」

「うん、嬉しいよ。ありがとう七海ちゃん」

不二くんがはにかむように微笑む。
美しい……この笑顔のためだけに危険を犯して台所で調理したと言っても過言ではない。

大石くんは、「保健室に連れて行ってくるよ…」と言って、少しふらつきながら菊丸くん達を教室から運び出した。乾くんも一緒だ。

「ホワイトデーは楽しみにしてて。頑張って作るよ」

「うん!………ん…?」

「手作りチョコのお返しなんだから、ボクも手作りにしようと思って。ダメ、かな?」

「ううん!ダメじゃないよ!」

来月は私も保健室の住人になるかもしれない。



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