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「座って待ってて。お茶を淹れてくるよ」

「うん。ありがとう」

ドアから出ていった周助くんを見送り、彼の部屋で一人残される。

不二家への訪問はこれで五回目になる。
今日はお母さんもお姉さんもいないらしい。
他の家族がいない時に遊びに来たのはこれが初めてだった。

お母さんやお姉さんとは遊びに来るたびに楽しくお話しさせて貰っている。
普段は寮生活をしている裕太くんとこの家で会ったのは一度だけ。
外では練習試合や遊びに行った時に何度か会っているけど、周助くんいわく、あまり自宅に寄りつかないらしい。
原因の大半は周助くんにありそうだが、本人に自覚があるかどうか怪しいものだ。

この家で一度裕太くんに会った時、突然の雨で濡れてしまった私は周助くんとお母さんに勧められてシャワーをお借りした直後で、丁度脱衣所を出た所で帰ってきたばかりの裕太くんと遭遇したのだった。
場所が場所だったせいで何やら勘違いされてしまったらしく、裕太くんは真っ赤になって動揺していた。
もちろん、後で私達だけじゃなくお母さんも自宅にいると知って、誤解だと分かって貰えたけど、その後暫くは周助くんにそれをネタにからかわれたようだ。

「だって面白いじゃない。裕太、暫くはキミの顔をまともに見られないんじゃないかな」
と笑っていた周助くんは本当にいじめっこだと思う。
そもそも兄弟で普通そういった話をするものだろうか?
しないよなあ、やっぱり。
自分の家族の生々しい性事情なんて、あまり知りたくないのが普通だと思う。

ただ、「彼女とはどうなってるんだい?ボクに話してごらんよ」と笑顔で裕太くんに詰め寄る周助くんの姿は容易に想像出来た。
そして、隠そうとするも、挙動不審な態度からあっさり様々なコトがバレて周助くんにからかわれるところまで脳内再生余裕でした。
勝手に想像しておいてなんだけど、ほんとにひどいな周助くん。
裕太くんは彼女が出来たらお兄さんには絶対ギリギリまで隠すべき。
でもたぶんすぐバレるけど。


「難しい顔してるけど、何か考え事?」

「う、ううん。何でもないよ」

周助くんがお茶とお菓子を持って戻って来た。
テーブルの上に置いてくれる。

「わあ、すごくいい匂いだね」

「うん。今日はバニラ・ラテにしてみたんだ」

それから周助くんと楽しくお話した。
お茶を片手に、音楽の話、写真の話、テニスの話。
周助くんがベッドの上に大判の写真集を広げておいたので並んで眺めていたのだが、

「──七海ちゃん」

ギシッ…と私が座る横の部分のベッドが沈みこんだ。
周助くんが私の身体を挟みこむようにして手をついたのだ。

「いい?」

耳に甘く囁かれる誘いの言葉。
周助くんの匂いがして、すぐ近くから綺麗な双眸が私をまっすぐに見つめている。
切なそうな、そして少し苦しそうな、熱っぽい眼差し。

勿論、ダメと言えるはずがなかった。



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