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真夏の陽射しにも負けず、いつも通りハードな練習を終えた青学テニス部だが、今日はいつもよりもテンションが高かった。
あまり体力がなくて、練習直後にはぐったりしているはずの一年生部員までもが明るい表情でノルマを終えている。
それは御褒美があるからだった。

「うおおおっ、つめてー!」だとか、
「やっぱ夏はかき氷だよな!」などと話している声が聞こえてくる。

練習を終えた部員達の手にはそれぞれ、プラスチックの容器に盛られたかき氷があった。
河村くんのお父さんのお友達でお寿司屋さんのお得意様だという人が、大きな氷を差し入れてくれたのだ。
有り難い事に、三種類のシロップまで一緒に。
礼儀正しく頭をさげて丁寧にお礼を述べた手塚くんに続いて、私達も声を揃えてお礼を言うと、河村くんのお父さんのお友達は「若い内はたくさん汗をかかないとな。これで涼んでまた頑張れよ」と笑った。

ちなみに、途中で転んだせいで最後のダッシュでビリになってしまった二年生部員だけは、普通のシロップの代わりに乾くん特製の乾汁がかかった『牡蠣氷(かきごおり)』を食べさせられている。
可哀想な彼の顔はすっかりブルーハワイ色になっていた。


「七瀬、悪いが、これを手塚と不二に持っていってくれないか。部室にいるはずだ」

「はーい」

乾くんに頼まれ、二人分のかき氷を持った私は、削ったばかりの氷がとけないうちに部室へと急いだ。
──のだが、ドアを開けて貰うために声をかけようとしたところで、何やら深刻そうな話し声が聞こえてきて言葉を飲み込んだ。

「不二、俺は」

「分かってるよ手塚。キミもボクと同じ気持ちだって。バレてないとでも思ってた?」

「不二…」

「ボクもずっと見ていたからすぐに分かったよ。普段はポーカーフェイスなのに、こういう事に関しては意外と分かりやすいんだね、手塚は」


──こ…これは…もしかして……


「誰だ!」

気付かれる前に焦って立ち去ろうとした私の前で、ドアがバタンと開く。

「七瀬…」

内側からドアを開けた手塚くんは私を見て驚いたようにちょっとだけ目を見開いた。
手塚くんの後ろから不二くんが歩いてきて私を覗き込む。

「だ、大丈夫!」

何か言われる前に私は叫んだ。

「二人が想いを確かめあってたことなんて私全然聞いてないから!何も聞いてないからっ!!」

「誤解だ七瀬」

「誤解だよ七海ちゃん」

「ご…誤解…?」

「俺は不二に宣戦布告をしていたところだ」

いつもの冷静な声で手塚くんが言った。

「ボクは手塚の気持ちなんてとっくに知ってたから、今更ライバル宣言なんて必要ないって言おうとしてたところだよ」

笑みを含んだ声で不二くんが言った。

「ライバル宣言って…何に対しての?」

テニスじゃないことだけは確かだ。
中学に入ってテニス部で知り合ってから二人はずっと同じ高みを目指す同士でありライバル同士でもあったのだから。
それこそ今更言葉にする必要なんてないはずだ。

混乱している私に手塚くんが言った。

「俺はお前を異性として好ましく思っている」

「えっ?」

「好きだ」

「えええええっ!?」

「抜け駆けはずるいな、手塚。でも先手必勝とはいかないよ」

クスッと笑った不二くんがさりげなく手塚くんと私の間に割って入ってくる。

「好きだよ、七海ちゃん。手塚よりもずっと、キミが好きだ」

手塚くんの突然の告白だけで既にオーバーヒートしかけていた私に不二くんまでもが追い討ちをかけてきた。

どうすればいいんだろう。
この突然降ってわいた修羅場も、私の両手にある二つのかき氷も。



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