「お酢は苦手だけど林檎の酸味は平気なんだね」 私が家から持って来た林檎を食べていると、「一口貰えないかな?」と不二くんが聞いてきた。 確かに、不二くんの林檎好きは有名だ。 ファンの子はもちろんチェックしているだろう。 私としても大歓迎だったので、喜んでわけてあげた。 そこから好きなものの話になって、ジャズの話になった。 「お父さんが中学生の頃からずっとサックスやってて、うちでもよく聴いてたから、そのせいだと思う。テイク・ファイブなんて、赤ちゃんの時からよく聴かされてたから覚えちゃった」 「あれが子守歌代わりなんて凄いね。ウエストコースト・ジャズはボクも好きでよく聴くよ」 「今でも時々友達とライブハウスとかバーで演奏したり」 「ボクも姉さんに連れられて行った事があるよ。ずっとピーナツばかり食べてた」 「私はポッキーもりもり食べてた」 「二人が何話してるのかさっぱりわからないにゃ…」 「あれ?英二いたんだ」 「不二いぃぃ〜!?」 ひどい!と大袈裟に泣き真似をしてみせたので、不二くんはクスクス笑って「ごめん」と謝っていた。 そしてまた林檎を一口。 シャリッといい音がする。 食べ方も上品だ。 きっと、朝ごはんは優雅にワッフルとコーヒーとかで、おでんとかは食べないんだろうなぁ。 「確かに朝はワッフルとコーヒーが多いけど、おでんも食べるよ」 どうやら口に出してしまっていたらしい。 不二くんが答えてくれた。 「ちくわぶ美味しいよね」 「うん。でもボクの一番のお勧めはキムチ大根かな」 「えっ、おでんの具でキムチ?」 「そうだよ。食べたことない?キムチ大根」 「うん、知らなかった」 「じゃあ今度うちにおいでよ。一緒に食べよう」 是非!と言いかけたところに、コホン、と控えめな咳払いが割って入った。 「二人して楽しそうに話してて、だーれか忘れてませんか?」 菊丸くんにジロリと睨まれる。 「あれ?英二いたんだ」 「不二いぃぃ〜!?」 ひどい!とまたもや大袈裟に泣き真似をしてみせたので、不二くんはクスクス笑ってまた「ごめん」と謝っていた。 それから私の耳に顔を寄せて、 「今度うちに遊びにおいで。英二は抜きで」 と、菊丸くんには可哀想だけど嬉しいお誘いをしてくれたのだった。 |