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「本当に優秀だね、キミは」

不二くんがクスッと笑う。

「今もマネージャーの仕事のことばかり考えてる」

「いやいやいや、それが仕事だし」

「ねえ、分かってる?」

私の言葉を断ち切るように言葉を被せて、不二くんが一歩踏み出した。
距離を保つために自然と私も一歩下がる。

「いまキミは、他に誰もいない場所で、キミに好意を持っている男と二人きりでいるんだよ」



コートから聞こえてくる音が急に遠くなった気がした。

確かに今ここには不二くんと私だけしかいない。
部室の裏だから、音や声は聞こえてくるけど、練習をしているみんなの姿は見えない。それはつまり、向こうからも私達が見えないということだ。

とん、と背中が洗濯機にぶつかってはっとした。

「も、もう、またからかってるんでしょ」

「からかってないよ」

「だって私と不二くんは友達なのに…」

「キミは友達とキスしたいって思う?」

「お、思わないよ!」

「そうだよね。でも、ボクはキミとキスしたい。だから、ボク達は友達じゃない」

さっきから何か煩いと思ったら、自分の心臓の音だった。
どっくん、どっくん、と頭全体が心臓になったみたいに脈打っている。

「好きだよ、七海ちゃん」

心臓がきゅうっとなるような声で囁いた不二くんの目に射竦められたみたいに身体が動かない。
綺麗な目だなと思った。
柔らかく細められたそれがとても近くにあって、何をされているのか気が付いたときには、もう唇の熱は離れていった後だった。

「なるべく早くボクのこと好きになってね」

クスッと笑った不二くんが背中を向けて歩いていく。
ちょうどその姿が見えなくなると同時に、菊丸くんが不二くんを呼ぶ声が聞こえてきた。

「ごめんごめん。ちょっとね」

「ちょっとって、なーにしてたんだよ不二」

「うーん……狩り?」

「にゃははっ、なんだよそれー!」

楽しそうに笑う菊丸くんの声を聞きながら、私は両手で口を覆ったまま、その場にずるずると崩れ落ちるようにへたりこんだ。
狩りか。



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