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「七海ちゃん?」

呼ばれて肩がぴくんと跳ねたのは、後ろめたい気持ちがあるからだ。
私は平常心を装って振り返った。

「不二くん…」

「まだ残ってたんだね」

「数学のプリント忘れちゃって…」

「明日提出の?」

「そう、途中で気が付いて取りに戻って来たの」

そのせいで教室に来る途中で衝撃の告白現場を目撃してしまったわけだ。
自分のうっかりさ加減が恨めしい。

「結構うっかりさんだよね、七海ちゃんは」

私が目撃してしまったことなんて知る由もない不二くんが、軽く握った拳を口元に当ててクスッと笑う。
その拍子に、私は彼の制服のボタンが取れかけていることに気が付いた。
中学のときもそうだったけど、青学は高校も黒い学ランなので、金色のボタンが取れかかっていると目立つ。

「不二くん、ボタンが」

私が指を差して教えると、彼はボタンを見下ろして、ああ、と呟いた。

「さっき引っ掛けちゃったから、その時かな」

不二くんは苦笑してそう言ったが、実際には、女の子が彼を引き留めようとしてボタンを掴んだせいなんだろうなと想像がついた。
私が見たのは、彼に縋りつこうとしていたところだけだったけど、その後にもしかしたら揉み合いっぽくなったのかもしれない。

「私ソーイングセット持ってるから縫ってあげようか?」

修羅場を目撃してしまった後ろめたさから、ついそう口に出していた。

「じゃあ…お言葉に甘えようかな」

意外にも不二くんは素直に承諾してくれた。



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