「で、どっちが本命?」 昨夜、大掛かりな捕り物があったらしい。 特級呪物の回収だとかで、呪物に惹かれて寄って来る呪霊の数も相当なものだったらしく、かなりの人数の呪術師がかり出されたのだそうだ。おまけに呪物を横取りしに来た呪詛師まで現れたのだとか。 結果、大量の怪我人が出た。 私と硝子ちゃんは真夜中に叩き起こされて医務室でその怪我人の治療を行なっているところだった。 もうほとんど無意識の内に反転術式を行使して、最後の一人を治した後で硝子ちゃんが言った。 「ほ、本命?」 とぼける気は更々なかったのだが、何しろ夜中から反転術式を使いまくっていたせいで思考が追いつかない状態だったため、結果として満足のいく答えを返せなかった。 「あのクズ共のこと」 硝子ちゃんが煙草が入っているポケットを気にしながら補足してくれた。 疲れたから一服したいんだろうな。 私も何か飲みたい。 「とりあえず、終わったし、自販機に行こ」 「賛成」 医務室を出て四つ並んだ自販機のある一角まで来ると、硝子ちゃんはコーヒーを、私はスポーツドリンクを買って喉を潤した。 「さっきの質問だけど」と私は切り出した。 「二人ともタイプは違うけど素敵な男の子だと思うよ」 悟くんはどこまでも続く青空のような人だ。ヒトとしての規格が違い過ぎて、時々人間の器を借りて下界に来た神様に近い生き物のように感じることがある。 私は思ったままを正直に硝子ちゃんに伝えた。 「じゃあ、夏油は?」 「傑くんかぁ、中学に上がるまではナチュラルに将来は傑くんのお嫁さんになるんだと思ってたんだよね、私」 「中学に上がるまではって、中学で何かあった?」 「うーん」 私はなるべく客観的に話せるように言葉を探して硝子ちゃんに伝えた。 中学に入ってすぐ、私は一人の女の子と仲良くなった。 わりと誰とでも仲良く話せる性格だったので友達は沢山いたけど、その子は親友と呼べるくらい仲良くなった。 そして、その子は傑くんと付き合い始めた。 「は?」 「硝子ちゃん、顔が怖い」 「だって、何やってんの、あの馬鹿」 「少しの間だけ三人で遊んだりしてたんだけど、その内ギクシャクして、二人とも別れちゃったんだよね」 「そいつとはそれっきり?」 「うん。やっぱり気まずいみたいで距離を置かれて話さなくなっちゃった」 「ふーん……夏油は?」 「気を遣ってくれたのか、それまで以上にいつも一緒にいてくれるようになったんだよね」 だから、私は傑くんにとって恋愛対象ではないのだ。 あの子の一件でそれがよくわかった。 「て、言ってたけど、どうなの」 「なまえが勘違いしているのはわかっているよ」 なまえが今朝の医務室での任務の報告書を夜蛾に提出しに行った隙に、家入は夏油を人気の無い場所へ引っ張って来ていた。 「なまえの友人……あの女は、初めから私目当てでなまえに近付いたんだ。そしてまんまと親友の座に収まると、私にこう言った。『私と付き合って下さい。もし断られたら、今まで通りなまえちゃんとは仲良く出来ないかも』」 「クズだな」 「まあ、私もなまえと付き合った時のための練習台にしたから、人のことは言えないけどね」 煙草を咥えた家入に、夏油がライターで火をつけてやる。 「反省はしているよ。他の女と付き合ってみても、やはり私にはなまえだけだとわかっただけだった」 だから、幼馴染みとして信頼されているのを良いことに、どろどろに甘やかして身も心も自分無しでは生きていけないようにしてやるつもりなのだと。 夏油は昏い執着心を隠しもせずさらりと言ってのけた。 「クズだな」 「否定はしないさ。自分でも恐ろしくなるほどだからね。悟もそうだろう?」 「……まあな」 建物の陰から現れた五条に、夏油はもちろん、家入も驚いた様子はなかった。 「なまえを泣かせるなよ、クズ共」 「わかってるって」 「肝に命じておくよ」 |