東京都立呪術高等専門学校、略して高専に入学して一ヶ月が経った。 何度も四人で一緒に任務をこなしたり、教室で机を並べて座学を学んだり、同じ寮で生活を共にすることで、良い意味でお互いに遠慮が無くなってきたように思う。 それほど密度の濃い一ヶ月だった。 「なまえ、なんか食わせて」 一応、形ばかりのノックをしてから遠慮なく部屋に入って来た五条くんが、備え付けのキッチンに立つ私の背後から手元を覗き込む。 世にも美しい顔が間近に迫ってドキッとした。サングラスをかけていなかったらもっと破壊力があることを私は既に学習していた。 「おっ、うまそう」 五条くんが嬉しそうな声を上げる。 ちょうど唐揚げを揚げたところだった。 時間も時間だし、お腹がすいているのだろう。 「一個味見する?」 「うん」 一個だけつまみ食いを許してあげて、残りはブロッコリーやナスやパプリカなどの温野菜と一緒に甘酢あんかけにする。 タイミング良く、炊き込みご飯が炊けたと炊飯器が音を鳴らして教えてくれた。 当然五条くんも食べていくものだと思ったので、二人分の食器を用意して炊き込みご飯とおかずをよそった。 すると、五条くんもごく自然にお皿をテーブルに運んでくれる。 私の部屋に来た傑くんがそうしているのを見て、彼もそうするようになったのだった。 実家では身の回りのことは全部お手伝いさんがやってくれていたというから、これは大きな進歩だ。 「もう食っていい?」 「いいよ」 「んじゃ、いただきます」 綺麗な箸使いで食べ始めた五条くんのコップに麦茶を注いでから、私もいただきますをして箸を手にした。 ふうふうと吹き冷まして炊き込みご飯を食べる。炊きたてという点を除いても満点の出来だ。 「んまい」 一言だけ感想を述べてあとは黙々と食べ続ける五条くんに、随分心を開いてくれたものだなあと思わず頬が緩む。 最初は警戒心丸出しの猫みたいだったのに、いつの間にかするりと懐に入られてしまっていた。 「なまえ、おかわり」 「ご飯?おかず?」 「両方」 こんなこともあろうかと多めに作っておいて良かった。 立ち上がっておかわりをよそいに行く。 最初は傑くん、それから硝子ちゃん、そして傑くんにくっついて五条くんも私の部屋を訪れるようになっていた。 主に、ご飯目当てで。 寮母さんに言えば三食用意してもらえるのだが、寮生活を始めるにあたり、私はなるべく自炊しようと決めていた。 ここを出たらいずれは自炊することになるのだから、いまから始めておくにこしたことはない。 食べ終わって満足した五条くんがテレビをつけた。 「なまえも観るだろ」 そう言ってプレイヤーにDVDをセットする。 「うん。今日は何観るの?」 「観てのお楽しみ」 こういう時は警戒すべきだ。 身構える私の前で、画面に制作会社のロゴが映し出され、続いていかにも怖そうなおどろおどろしい音楽が流れ始めた。 間違いなくホラーだ。 「ちょ、ちょっと待って!傑くんが帰って来るまで待って!」 「俺でいいじゃん。怖かったら傑にするみたいに俺にしがみついてもいいぜ」 五条くんがニヤニヤしながら言った。 完全にいじめっ子の顔だ。 「五条くん!」 「悟」 「五条くん、止めてってば!」 「悟って呼べよ、なまえ」 助けて!傑くん! |