三年生の先輩から、クリスマスイブに一緒に出かけないかと誘われた。
悟くんを化け物呼ばわりしたのを私が張り倒してしまった、例の先輩である。

硝子ちゃんは「マゾかよウケる」と笑っていたけど、こちらはそうもいかない。
さては何か企んでいるのかと警戒しながら呼び出し場所に向かうと、先輩は先に来ていて、真っ先にあの時のことを謝られた。
そして、仲間のために本気で怒ることの出来る君は凄い女だと褒められてしまった。
そんな君のことが好きになってしまったと言われ、良かったらクリスマスイブに一緒に出かけないかと誘われたのだった。

「よし、殺そう」

教室に戻ってきた私を待ち構えていて、その話を私から聞き出した傑くんが真顔で言った。

「やっぱりあの時殺っておくべきだったな」

サングラスを指で直しながらこちらも真顔のまま悟くんが言った。

「意外と度胸あるじゃん。ただのマゾかもしれないけど」

面白くて仕方ないといった様子で硝子ちゃんが言った。明らかにこの状況を楽しんでいる。

「それで、なんて返事したの?」

「好きな人がいるから行けません、ごめんなさい、って」

「私のことだね」

「俺のことだよな」

「クズ共、うるさい」

勢いよく身を乗り出してきた二人を硝子ちゃんが斬って捨てる。

「そしたらなんだって?」

「あの二人のどっちかなのかって聞かれたから、そうですって応えたら、わかったって」

「そこで諦めるのかよ。ダメ男め」

硝子ちゃんは舌打ちして脚を組み変えた。
同じ年なのに、この醸し出されるオトナの女オーラはどこから生まれるのだろう。
私には無いものだから、ただひたすら羨ましい。さすが硝子ちゃん。
時々、夜に寮を抜け出してクラブに行ってるみたいだし、やっぱり経験の差かなあ。

「硝子ちゃんはイブの夜、何か予定ある?」

「今年は無いよ」

「じゃあ、せっかくだからみんなと一緒に過ごしたいんだけど、だめかな?」

「私はいいけど、不満そうなのが二人いるな」

視線を移すと、悟くんと傑くんがあからさまにガッカリした顔をしていた。

「えっ、嫌だった?」

「嫌じゃねーよ。たださあ、イブって言ったら普通は好きなやつと二人きりで熱い夜を過ごすもんじゃねえの?」

「悟くんにそんな俗っぽいことを教えたのは誰?」

「雑誌で見た」

「そんな雑誌を真に受けちゃだめだよ。クリスマスは家族や仲間と穏やかに過ごす日なんだよ、悟くん」

「それはまあ正論だね」

傑くんが納得したように苦笑すると、悟くんはオェッと舌を出してみせた。

「俺、正論嫌い。俗っぽくていい。外出届出してホテルのスイート予約するから俺と二人で過ごそうぜ、なまえ」

「駄々をこねるものじゃないよ、悟。私は皆一緒で構わないよ、なまえ」

「は、良い子ちゃんぶるなよ、傑。本当はお前だってなまえと二人きりでいたいんだろ?」

「私は子供の頃からずっとイブもクリスマスもなまえと過ごしてきたからね。君と違ってがっついてないのさ」

「クソッ!自慢かよ、傑!表出ろ!」

「もう、喧嘩しないの」

私は左腕で傑くんを、右腕で悟くんを掴まえてぎゅっとした。
私のせいで親友同士である二人の間に亀裂を入れてしまうのは避けたい。
その想いが伝わったのか、二人は口をつぐんで静かになった。

「二年生になったら後輩が入ってきて、私達も先輩になるでしょう。きっといま以上に任務も増えて忙しくなるから、四人揃って過ごせる時間も減ると思うの。だから、今のうちに想い出を作っておきたいなって思ったんだけど、だめかな」

「……ダメじゃない」

「ごめん、なまえ。反省してるよ」

良かった。わかってもらえたようだ。
しおらしくなった二人に安堵しつつ、二人と組んだ腕を引き寄せる。

「じゃあ、イブの夜はみんなで楽しく過ごそうね」

「ん」

「そうだね」

なんだか二人とも変だ。頬が少し赤いし、そわそわしていて目を合わせてくれない。

「なまえ、思いきり胸当たってるよ、そいつらに」

硝子ちゃん!そういうことはもっと早く教えてほしかった!気付かないで胸を押し付けてた私が痴女みたいじゃないか。自分でしたこととは言え、穴があったら入りたいくらい恥ずかしい。
というか、どうして言ってくれないの二人とも!

「だって、なあ?」

「まあ、何というか……柔らかかったよ」

「意外とボリュームあるよな。勃った」

「悟くんと傑くんのえっち!!!」


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