冬の日本海に降る雪を見ていると、この世界に独りきりになってしまったような錯覚に襲われる。 実際にはそんなことはなくて、単に傑くんと別行動中というだけなのだが。 「待たせてごめん。寒かっただろう」 戻ってきた傑くんが私の両手を自分の手で包み込むようにしてあたためてくれる。 「手袋も必要だったね」 「確かに。この寒さは予想以上だ」 マフラーはしてきたけど、手袋までは着けてこなかったのだ。 「傑くん、見つかった?」 「いや。向こうにはいなかった。もう少し西を探そう」 傑くんがさりげなく私と手を繋いだまま歩き出す。 「たまには海沿いの道でデートというのも悪くないだろう?」 これは私を励ますための冗談だ。 改めて辺りを見回す。 寂れた港町といった風情の小さな町には通りすがる人の姿も見当たらない。 ただ波の音ばかりが聞こえてくる。 この寂しい景色に負けてしまわないように、私は繋がれた手をしっかりと握り返した。 「傑くんと一緒なら、どんなところでも生きていけそう」 「私もだよ」 指を絡めて恋人繋ぎにしながら傑くんが笑う。 「君がいれば、そこがどんな地獄でも生きていける」 その後、ようやく残穢を見つけた私達はそれを辿って姿を隠していた呪霊を探し出し無事取り込むことが出来た。 一応帳は下ろしたけど本当に誰もいないので必要なかったかもしれない。 「寂しい町だったね」 補助監督さんに迎えに来て貰うまでの間、私達は既に終バスが出た後のバス停のベンチに並んで座って、途中の自販機で買ってきたコーヒーとココアの缶でそれぞれ暖を取っていた。 「そうだね。でも、私はそれほど嫌いではないよ、こういう所」 「傑くんは目立ちたがりなのに、賑やかな場所はあまり好きじゃないよね。確かに静かに隠居生活を送るにはいいかも」 「もしかして、さりげなくディスられてる?」 「補助監督さんまだかなあ」 「こら、話を逸らさない」 私が笑うと、傑くんも笑顔になった。 静寂の中で二人の声だけが明るく響く。 どちらともなく、缶を持っていないほうの手を重ね合わせた。触れあっている場所からお互いのぬくもりが伝わってくる。 傑くんの手は大きくてゴツゴツしていて、乾いていた。そして、とてもあたたかい。 「好きだよ」 唐突に傑くんが言った。 「初めて君と出逢った時、独りきりだった暗闇に光が差した気がした。いまでもその気持ちは変わらない。君は私にとって、この地獄を照らす唯一の光なんだ」 「傑くん……」 「君が欲しい。君を私だけのものにしてしまいたい」 傑くんの切れ長の瞳に浮かぶ熱に耐えられなくて視線を足元に落とす。 ここは屋根があるから平気だけど、道路にはうっすらと雪が積もりつつあった。 グレーがかった分厚い雲に覆われた空からは絶え間なく真っ白な雪が舞い落ちてくる。 「愛してるよ、なまえ」 ひどく熱っぽい声音で傑くんが言った。 「抱きたい。高専に戻ったら抱いてもいいかい?」 「だ、だめっ!」 |