旧校舎に入って行ったきり生徒が二人戻って来ない。警察や保護者が探したけど見つからなかった。 そんな連絡を受けて、私と悟くんはある中学校を訪れていた。 「『窓』の情報によると、中はかなり危険な状態のようです。くれぐれもお気をつけて」 帳を下ろしてくれた補助監督さんに見送られて旧校舎の中に足を踏み入れる。 まるで巨大な生き物の体内に入り込んでしまったような錯覚に一瞬たじろいだが、この中には行方不明の生徒がいるのだと勇気を奮い起こした。 「怖いなら手ぇ繋ぐか?」 「ううん、大丈夫」 「ならいいけど。あんま無理すんなよ」 「ありがとう悟くん」 いつかの時のようにからかわれることはなく、本当に心配してくれているようだ。 悟くんが成長したからか、それとも私達の関係が変化したからか。あるいは両方かもしれない。 「でも、まあ、これで家出の線は消えたな」 「そうだね」 中に入ってみてわかったけど、ここは負のエネルギーの溜まり場だ。 長年に渡って積み重ねられてきた人々の想い出が興味本位で肝試しにくる生徒達の負の感情によって歪められて酷いことになっている。 普通の人間がこんな場所に長時間いたら呪いの影響を受けるのは確実だった。早く見つけてあげないと。 「わかるか?」 「うん、下のほうから嫌な感じがする」 「正解、この真下だ」 悟くんの六眼は既に呪いの本体を捉えていたようだ。 悟くんの蹴り一発で床に大きな穴が開いた。 悟くんに手招きされて歩み寄ると、ひょいと抱き上げられた。そのまま悟くんが穴の中に飛び降りる。 そっと降ろされた足の下には先ほどまでとは違う固い地面の感触があった。 「昔ここには旧日本軍の基地があったんだって」 「それだな」 明らかに人の手で造られたトンネルの中に私達は立っていた。 どうやらもう探し回る必要はなさそうだ。 目の前に蠢く肉塊がある。 その中に人間の身体が見え隠れしていた。 「俺がやる。下がってろ」 悟くんが肉塊の中に腕を突っ込んで、取り込まれていた人を引きずり出す。 一人、二人。行方不明になっていた生徒だ。 「なまえ」 「任せて」 二人の身体はかなり呪いに侵食されていたが、手をかざして反転術式をかけると、みるみる内に呪いが薄れて消えていった。 二人とも意識はないけど生きている。 手遅れにならなくて本当に良かった。 肉塊の咆哮が辺りの空気をビリビリと震わせる。 「うるせーよ」 バシュッ!という音とともに呪いの塊が消し飛んだ。 塵になって消えていくそれを見もせずに悟くんが二人の生徒を担ぎ上げる。 「ちょっと待ってて」 二人を担いだまま穴の外に出た悟くんが再び戻ってきて私を上に引き上げてくれた。 意識を取り戻した二人が悟くんを見て顔を赤くしている。 自分達を助けてくれたヒーローな上に超のつくイケメンだもんね。気持ちはよくわかる。 「あの、ありがとうございました!」 「なまえにも言えよ。なまえがいなかったらお前ら死んでたぜ」 「す、すみません!ありがとうございました!」 「身体は大丈夫?苦しかったり痛いところはない?」 「はい、大丈夫です」 女子中学生可愛いなあ。 「じゃ、さっさと出るぞ。もう歩けるだろ」 歩き出した悟くんの後を女の子達が慌てて追いかけていく。 うーん、塩対応。それでも二人は嬉しそうだった。怖い思いをしたはずなのに元気そうで何よりだ。 旧校舎の外に出ると帳が消えていた。 補助監督さんが解除したのだ。 「そいつら一応病院に連れて行って。俺となまえはケーキ屋寄って行くから」 「わかりました。二人を送り届けたら迎えに行きます」 補助監督さんが車の後部座席のドアを開けると、女の子達は何やら顔を見合せた後、タタッと悟くんに駆け寄ってきた。 「本当にありがとうございました!それで、あの、これ良かったら受け取って下さい!」 女の子が差し出したのは携帯電話の番号とメアドが書かれたメモだった。顔が真っ赤だ。 「悪ぃけど、そういうのいらねーから」 冷たい声で言って悟くんが女の子達に背を向ける。 「行こうぜ。うまいケーキ屋連れてってやる」 「あ、うん」 私の手を握った悟くんに引っ張られるようにして歩き出しながら振り返ると、二人の女の子達がお互いに慰めあっているのが見えた。 「なまえ、ケーキ好きだよな。何食べる?」 さっきまでとは違う優しい声で悟くんが尋ねてくる。 温度差で風邪をひきそうだ。と、困惑しながら考える。 「ケーキと言えば、今日は悟くんのお誕生日でしょう。何か欲しいものある?」 「なまえ」 「えっ」 「なまえが欲しい」 どう答えていいものか困っておろおろしていると、悟くんにぎゅっと抱き締められてしまった。 「可愛い。抱きたい」 「だ、だめっ!」 |