「お前達、頼むから問題を起こしてくれるなよ。特に悟」

「は?なんで俺?」

「問題児の自覚がないのか……」

夜蛾先生が頭を抱えたくなる気持ちは良くわかる。今日から京都姉妹校交流会が行われるからだ。
何か問題を起こしてライバル校につけ入る隙を与えたくないのだろう。
それでなくとも良くも悪くも「五条悟」は目立つ存在なのだ。この半年でそのことが骨身に染みてわかっていた。

「悟くん、いい子にしててね」

「いい子にしてたらご褒美でもくれんの?」

ニヤニヤ笑う悟くんの頭に夜蛾先生の拳骨が落ちた。

「馬鹿者。何かしでかしてなまえに嫌われるかもしれない可能性を心配しろ」

「えっ、それはやだ」

「だから気をつけろということだよ、悟」

「お前もだぞ、傑」

「なまえ、何かしたからといって、私のことを嫌いになったりするかい?」

「悟くんのことも傑くんのことも嫌いになったりしないよ」

「よっし、思いきりやるぞ、傑!」

「そうだな」

途端に張り切りだした二人に、ため息をついた夜蛾先生が私を見る。

「なまえ、お前なあ……」

「えっ、あ、ごめんなさい」

もしかしなくても私のせいで京都校の先輩達が酷い目に遭うかもしれない。ごめんなさい。硝子ちゃんも笑ってないで止めて。

こうして交流会は幕を開けたのだった。
交流会の中身は、仲間を知り己を知ることを目的とした呪術合戦である。
相手に再起不能の怪我を負わせること及び殺害以外は何でもありだというから物騒極まりない。

初日は団体戦。
指定された区画内に放たれた二級相当の呪霊を先に祓った側の勝利となる。
区画内には三級以下の呪霊も複数放たれていて、日没までに決着が着かなかった場合は討伐数の多いチームの勝利となる。

と、説明されたのだけど。

「めちゃくちゃ暴れてんじゃん。ウケる」

既に高見の見物状態の硝子ちゃんの視線の先では、ド派手な破壊音を響かせながら木々がなぎ倒されていた。
傑くんが使役する呪霊の仕業である。例のあのワームみたいなの。あれが三級呪霊を食いまくっているのだ。
傑くんがわかりやすく陽動している間に悟くんが二級呪霊を仕留める作戦だそうだけど、ちょっとやり過ぎじゃないかなあ。

「あっ。合図だ」

どうやら悟くんが二級呪霊を祓ったらしい。
私は硝子ちゃんの護衛をしつつ、全体の状況を見る役割だったのだが、これでお役目御免になりそうだ。

私と硝子ちゃんが駆けつけると、京都校の先輩とおぼしき女性が悟くんの足元に倒れこんでいた。
傑くんもいる。

「こちらは、庵歌姫先輩」

傑くんが紹介してくれたけどそれどころじゃない。先輩はボロボロだ。たぶん、二級呪霊をめぐって争いになった、というか悟くんに一方的にフルボッコにされたのだろう。
私は庵先輩に駆け寄ると、すぐに反転術式で怪我の治療を始めた。硝子ちゃんも手伝ってくれる。

「手も足も出なかった……なんて子なの」

「歌姫だっけ、弱すぎじゃね?つーか雑魚じゃん」

「こら!失礼だよ、悟くん」

悟くんは悪びれた様子もなく、ベエッと舌を出してみせた。

「なまえと硝子に感謝しろよ。反転術式かけてもらわなかったら明日の個人戦には出られなかっただろうからな」

「くっ……わかってるわよ!」

庵先輩が悔しそうに悟くんを睨み付ける。
それから表情を和らげて私達を見上げた。

「ありがとう。私は庵歌姫。あなた達のお陰で助かったわ」

「どういたしまして」

硝子ちゃんがひらひらと手を振って気安い口調で応える。
私達も続けて自己紹介をした。

「庵先輩、大丈夫ですか?」

「歌姫でいいわよ。ええ、もう平気よ」

歌姫先輩は立ち上がると、ぱたぱたと制服に付いた土を払って私に笑いかけてくれた。優しそうな先輩で良かった。

「悟くんがやり過ぎた分は、後で夜蛾先生にお仕置きしてもらうので安心して下さい」

悟くんが「ゲッ」と呻く。そんな目で見てもダメだからね。

「傑くんもだよ」

「えっ」

「思いきり自然破壊してたでしょ。止めなかった私も悪いから、後で一緒に怒られようね」

「…仕方ないね。わかったよ」

傑くんの顔に付いていた土埃をハンカチで拭う私を見て、歌姫先輩がにっこり笑った。

「あなた、いい子ね」

「このクズ共が揃って惚れてるくらいですから」

硝子ちゃん、秒で私達の関係バラすの止めて。

二日目にあたる翌日は個人戦だったが、これも悟くんと傑くんが無双して圧勝だった。
私もちょっとだけ活躍した。ちょっとだけ。


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