「凄い雨だね」

「ああ、止みそうにねえな」

今日は早朝から悟くんと任務だった。
と言っても、私はオマケみたいなもので、現場にいた怪我人を治療しただけで、特級相当とおぼしき呪霊は悟くんが秒で祓ってしまった。
これには、先に到着して怪我を負いながら呪霊と戦っていた一級呪術師の人達もびっくりである。大人の自分達が敵わない相手をいとも容易く祓ってしまったのだから。

入学した時から既に別格の強さだった悟くんだけど、近頃の彼はもはや他の一級呪術師が足元に及ばないほど強くなっていた。
その強さたるや、まるで底無しだ。
なんだか悟くんがどんどん手の届かないところへ行ってしまうような気がして、思わずその手を握ってしまった。

「なに?手ぇ繋ぎたかった?」

悟くんは機嫌良く言って、私の手を握り返してくれた。ゴツゴツした大きな手はあたたかくて頼もしい。

「なあ、このままデートしようぜ」

「デート?」

「嫌か?」

「ううん、嫌じゃないよ。でも、私、お金あまり持って来てないから」

「俺が払う」

そんな悪いよ、とか、別の日に改めて来ようと言ってみたのだが、悟くんは頑として聞き入れてくれなかった。

「こんなチャンス滅多にないだろ」

結局、補助監督さんには帰り際に連絡して迎えに来て貰うことになり、私は悟くんに手を引かれて雨の街へと繰り出したのだった。

悟くんの足取りには迷いがない。どうやら目的地があるようだ。

「ここ。一度来てみたかったんだよな」

悟くんお勧めのカフェに入ると、雨のせいかお店の中はガラ空きだった。
外は雷が鳴り始め、いよいよ土砂降りになってきている。
ほとんど貸切状態の中、悟くんはジャンボパフェを頼み、私はパンケーキのセットを頼んだ。

「悟くん、甘いもの好きだよね」

「好きっつーか、頭回すために甘いもん食ってたら、いつの間にか習慣になっちまっただけな」

「そっか、悟くんの術式は脳に負担がかかるんだっけ。大丈夫?つらくない?」

「いまはお前と二人きりだからサイコーに幸せ」

パフェをスプーンで掬ってぱくりと食べた悟くんは確かに幸せそうに見えた。
それにしても美味しそうに食べるなあ。

「一口食う?」

「いいの?ありがとう」

「じゃあ、口開けろよ」

素直に口を開けると、スプーンでパフェを運んでくれた。うん、美味しい。
でも私にはちょっと甘過ぎるかな。常に糖分を補給しなければならない悟くんには丁度いいのかもしれない。

「いまの間接キスな」

悟くんが私に見せつけるようにスプーンを咥えて笑う。

「い、いまのはノーカンで!」

「ダメに決まってんだろ」

楽しそうに笑っていた悟くんが、ふと真剣な顔つきになった。

「俺、お前のこと、本気だから」

青い双眸に真摯に見据えられて言葉に詰まる。

「傑には絶対譲らねえ。必ず俺のものにしてみせるから覚悟しておけよ」

悟くんの本気の熱にあてられたせいだろうか。
その後食べたはずのパンケーキの味はよく覚えていない。


 戻る 



- ナノ -