11月22日は良い夫婦の日ということで、祓ったれ本舗の五条さんと一緒に夫婦水入らずで過ごせる温泉宿を紹介する特番に出ることになった。
噂に名高い五条さんとはこれが初の共演である。不安でいっぱいだった。

インパクトが大事だというプロデューサーの意向で、いきなり露天風呂に入浴しているシーンから番組は始まることに。
タオルを巻いての入浴だからと説得されて仕方なく了承したけど、裸同然の格好で男の人と露天風呂だなんて恥ずかしい。だからと言って事務所が頑張って取ってきてくれたお仕事なので文句を言うわけにもいかない。

「なまえさん、準備OKです」

「スタンバイお願いします」

露天風呂に入り、胸の辺りまでお湯に浸かる。すぐ隣では五条さんが寛いだ様子で同じように湯船に浸かっていた。
凄い。まるで神様が造りたもうた最高傑作のような肉体美だ。間近で見てしまった私は目眩を感じた。雄々しく美しいこの裸身が今から全国に生中継されるわけである。
眼福以外のなにものでもない。私も鼻血を吹いてしまわないか心配だ。

「緊張してる?大丈夫、僕がついてるから」

「ありがとうございます。今日はよろしくお願いします」

始まる前に挨拶に行った時と同じく、優しい言葉をかけてくれる。カメラ慣れしているのか、五条さんは全く構えた感じがなく自然体のままだった。さすが売れっ子。
五条さんに小さく笑顔で会釈を返し、私はカメラに向き直った。

3、2、1、と指で合図される間に私も女優としての笑顔を作る。

「こんばんは!厳選・夫婦で行ってみたい温泉宿、そのNo.1に輝いた夜見野村温泉郷の露天風呂からお送りしています」

「いや、さすがだね。こんな気持ちのいい温泉久しぶりだよ。それともなまえと浸かってるからかな。今、最高にイイ気分」

「本当に気持ちのいい温泉ですね。この温泉の湯は乳白色でとろみがあるのが特徴です。別名子宝の湯とも呼ばれているそうで、全国から噂を聞き付けた人達がご夫婦で入りに来られるとか」

「へえ、そうなんだ?じゃあ、僕達も負けずにイチャついちゃお!」

「えっ、あ!」

ざばりと湯が動いて五条さんの膝の上に抱き上げられる。あっという間の出来事で反応出来なかった。

「今日は良い夫婦の日だからね。夫婦らしく仲良くしないと」

よくわからない理屈はともかく、この状況には困ってしまった。
五条さんの凶悪な大きさのブツがお尻に当たっている。それどころか、五条さんはカメラにわからないようにソレをお尻の割れ目にぐりぐりと擦りつけてくるのだ。
セ、セクハラ!
本当は恥ずかしくて今にも頭が爆発しそうだったけど、私の我がままで撮影を中断するわけにはいかないので、私はなるべく自然に見える笑顔を作り、表面上は和やかに五条さんと会話を続けた。

「五条さんは温泉に来られたりするんですか?」

「実はあまりないんだよね。ほら、僕忙しいからさ。傑なんかは隙を見つけて来たりするらしいけど」

「そうなんですね。じゃあ今日はゆっくり堪能出来ますね」

「そうだね。なまえと一緒に入れて嬉しいよ。こうやってくっついていられるし」

隙あらば口説いてくる五条さんを上手くかわしながら何とかCMに入るまで持ちこたえた。

「良かったよ、二人とも。慌ただしくて悪いけど、急いで浴衣に着替えて次は料理の紹介ね」

「はい」

「りょーかい」

急いでお湯から上がるとすぐに脱衣所に駆け込み、身体を拭いて浴衣を身に付ける。
その間もメイクさんが額に浮いた汗を拭いてメイクを直したり髪をセットし直したりしてくれた。

「浴衣姿も可愛いね。よく似合ってるよ」

部屋には既に五条さんがスタンバイしていて、私も急いで彼の隣に腰を降ろした。

「もしかして、さっきの嫌だった?」

「嫌、ではないです、けど……」

「良かった。嫌われたらどうしようってちょっと心配だったんだ」

「嫌うなんて、そんな」

「じゃあ、僕のこと好きになってくれる?」

五条さんが蒼穹の色をした眼をキラキラと輝かせながら見つめてくる。この顔面は反則だな、と思った。だって、こんな顔で見つめられたらどうしたってときめいてしまう。

「本気で好きなんだ。なまえのこと。僕と真剣に付き合って欲しい」

「本番10秒前!」

ADさんの声が響く。
私は目の前の漆塗りのテーブルに並べられた美味しそうな料理の数々に一度視線を落とし、それから五条さんのほうを見た。

「って、口説いてくるだろうから気を付けるんだよ、って夏油さんが」

「傑、あいつ、後でぶん殴る」



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