「美々子きれい!」

「菜々子もかわいい……」

初めて着せられた晴れ着姿を喜ぶ様子に思わず顔が綻ぶ。自分が幼かった頃の母もこんな気持ちだったのだろうか。

「お腹苦しくない?」

「平気!」

「大丈夫」

大晦日ということもあり、夕食は皆で傑くんの好きなざる蕎麦を食べた。
それから炬燵を囲んで少しテレビを見てから二人の着付けを始めたのだが、ちょうど良い時間に支度を終えることが出来た。
まだ幼い二人は眠くなってしまうのではと心配だったが、美々子と菜々子は遅くまで起きていられることに興奮しているのか嬉しそうにはしゃいでいる。

「二人とも可愛いね。良く似合っているよ」

コートを着てこちらも出かける支度を済ませた傑くんが二人に優しく微笑みかける。
その言葉を聞いて、美々子も菜々子も揃って頬を染めて顔を輝かせた。さすが呪術界一のモテ男は褒め言葉もスマートだ。

「一番可愛いのは私の奥さんだけど」

そう言って傑くんが私の頬にキスをする。
それを見た二人は顔を見合せて嬉しそうにくすくす笑っていた。

「二人の支度、お疲れさま。任せてしまってすまないね。疲れていないかい?」

「私は大丈夫。もう出かける?」

「そうだね。本格的に混み合う前に行こうか」

私もコートを着ると、傑くんと一緒に美々子と菜々子を連れて近所のお寺を目指してマンションを出た。


高専四年生の時に、傑くんと結婚した。
学生結婚だが、私は既に高専の医務室に勤めていたし、傑くんに至っては特級術師さまだ。お互い働いていたから殆ど社会人同士の結婚と変わらなかった。
卒業後は寮を出て高専に近い町のマンションで暮らしている。

ここに到るまで色々なことがあった。
二年の時に二級案件だと思って行った灰原くんと七海くんが実際には土地神レベルの敵で危うく死にかけたり、三年の時に傑くんと私が任務で訪れた山村で村人から虐待されていた双子の女の子を助けたり。
そうした出来事が積み重なって非術師に対して不信感を抱いてしまった傑くんだけど、何度も話し合いを重ねるうちに自分の理想と現実とのギャップを受け入れて心の整理がついたらしく、今では非術師への対応も少しはましになってきている。

「あまり混んでなくて良かったね」

「本当。沢山いたらどうしようかと思った」

幼い二人がはぐれないように傑くんが菜々子と手を繋ぎ、私は美々子と手を繋いでいた。
除夜の鐘を聞きに来た人達でそこそこ混んでいるが、予想よりは少ない。

「夏油様、後で甘酒飲んでもいい?」

「一杯だけならね」

「やった!美々子も飲むでしょ?」

「うん。楽しみ」

大人用と子供用の甘酒を配っているテントを見つけた菜々子がはしゃいだ声をあげた。美々子も楽しそうにしている。

「ほら、始まるよ」

除夜の鐘の音が辺りに響き渡る。
お寺に集まった人達は思い思いに鐘をつく様子を見守っていた。美々子も菜々子も神妙な表情で見つめている。

時計を見ると、もう日付が変わっていた。

「明けましておめでとう、なまえ」

「明けましておめでとう、傑くん」

美々子と繋いでいないほうの手を傑くんに握られる。傑くんのこの手が子供の頃からずっと大好きだった。手だけじゃなくて、もちろん傑くんのことも。

「苦労ばかりかけてしまうけど、今年もよろしく」

「苦労だなんて思ったことはないよ。こちらこそよろしくね」

皆の視線が鐘に向いているのをいいことに傑くんはそっと私の唇にキスをした。

「夏油様!なまえ!明けましておめでとうございます!」

「明けましておめでとうございます」

「明けましておめでとう、二人とも」

「明けましておめでとう。甘酒飲みに行こうか」

「わぁい!」

「菜々子、はしゃぎすぎ」


今年も良い年になりますように。



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