「はっ……もうっ…イく──っ」

射精を宣言され、子宮がぞくぞくと期待感で昂ぶる。両腕と両脚が自然と五条先生の大きな身体に回され、まるで中出しをねだるかのようにナカがきつきつに締まった。
積極的に子種を求める私に向かって五条先生の腰が深く突き立てられる。次の瞬間、どくん、と五条先生のものが脈打ち、最奥へと熱い奔流が流れ込んできた。

「あっ、五条せんせ、あ……あぁぁ……!」

確実に妊娠させる。
愛しい雌を、絶対に孕ませる。
自分の種を植え付ける。
そんな狂気に近い熱情と欲望とが混ざり合った強烈な射精だった。
とめどなく襲いくる幸福感に身も心もとろとろに蕩けていく。やっと射精が収まる頃には、私の身体からはすっかり力が抜けて蕩けきってしまっていた。

「気持ちよかった?」

こくんと頷いた私に五条先生が唇を重ねる。

「可愛いね。愛してるよ、なまえ」

ちゅ、ちゅ、と音を立てて何度も軽くキスをしてから、深く唇を合わせて舌が入り込んできた。
後戯にしては情熱的すぎるキスに、まだ火がくすぶっていた身体が再び燃え上がりそうになる。

「も、だめ……です、これ以上は動けなくなっちゃう……」

「そうなったら僕が面倒見てあげるから大丈夫だよ。今夜はこのまま泊まっていきな」

五条先生は優しくそう言ってくれたが、もちろんそんなわけにはいかない。私達の関係は他の人には秘密にしてあるからだ。
五条先生に抱き上げられて部屋に備え付けの浴室で髪と身体を洗って貰い、ドライヤーで濡れた髪を乾かして貰った後。

「ほら、ふらついてるじゃん。やっぱり泊まっていきなよ」

「大丈夫です。先生、明日から遠方に出張じゃないですか。私なら平気ですから」

それなら部屋まで送って行くという先生の申し出を断って、私は何とか自分の脚で歩いて部屋に戻ろうとしていた。
消灯時間には何とか間に合いそうだけどすっかり遅くなってしまった。早く部屋に戻らなければ。

──もしかしなくても道に迷った?

何度も通い慣れたと思っていたのに、どうやら迷ってしまったようだ。高専の敷地が広大過ぎるのがいけない。決して私が方向音痴なわけではない。断じて違う。
半べそになりつつ、そう思いながら建物の角を曲がった時だった。

「おっと。危ない」

出会い頭に誰かとぶつかりそうになり、脚がもつれて転びそうになった身体を力強い腕にしっかりと支えられたお陰で倒れずに済んだ。

「大丈夫かい?君は悟の教え子だろう」

「あ、はい。すみませんでした」

「構わないよ。私は悟と同期ではあるけど教師ではないからね」

焦る私にその人は笑ってそう言った。
ハーフアップにした長い黒髪に、左側だけ額に垂らした特徴的な前髪。切れ長の瞳は理知的で、ともすれば冷たい印象を受けがちだが、優しく細められて微笑まれるとガラリと印象が変わった。
よく見れば、闇に溶け込んでしまいそうな黒い僧衣に袈裟を身に付けている。一目で実力者だとわかる佇まいだが、高専では今まで見かけたことのない人だ。

「高専の中だからとは言え、若い女性がこんな時間に一人で出歩いているのは感心しないな」

「すみません……えっと、あの」

「ふふ、いいよ。私が寮まで送ってあげよう」

おいで、と促されて断るわけにもいかず、その人の後ろについていく。同時にほっとしてもいた。これでやっと部屋に戻れる。

「悟は随分と君のことを可愛がっているようだね」

「えっ」

「さっきまで悟の部屋にいたんだろう?こんな時間まで離さないなんて困ったやつだ」

どうしよう。否定したほうがいいのだろうか。だけど、この人には何もかも見透かされている気がする。

「五条先生とは仲良しなんですか?」

「悟は私の親友だよ。たった一人のね」

五条先生に親友と呼べるほど親しい友人がいたことにびっくりしていると、その人は少し苦笑して「悟はああいう男だから君も苦労しているんじゃないか」と言った。
なので私もちょっと笑ってしまった。

「暗いから足下に気を付けて」

紳士だなあ。女性慣れしているというかエスコートが上手い。きっとモテるんだろうなと思わせる雰囲気があった。さすが五条先生の親友さんだ。

「ありがとうございます」

差し出された手を取る。その手が思いもよらないほど冷たかったので、私はポケットからホッカイロを取り出してその手を挟み込むようにして温めようとした。

「……参ったな」

足を止めてその人が言った。

「悟とは女性の好みは違うと思っていたんだけど。君のことが可愛くて堪らないというのはよくわかるよ。私も今そう思っているからね」

そうして、切れ長の瞳を細めてゆるりと微笑む。

「このまま連れて行ってしまおうか」

とても甘くて優しい声なのに、何故か恐怖を感じて一瞬で全身が総毛立った。
私達を取り巻く空気が異質なものに変わったのがわかる。
目の前に立つ男性が得体の知れない恐ろしい存在だということを今初めて知ってしまったように。

「なんてね」

その言葉とともに、先ほどまでのおどろおどろしさは瞬く間に消え失せていた。

「そんなことをしたら悟が怒り狂うだろうからやめておくよ」

ほら、着いたよ。

言われて、寮の前まで来ていたことに気がつく。まだ灯りはついている。セーフだ。

「ありがとうございました。あの」

後ろを振り返ると、その人はもう消えていた。辺りを見回しても誰もいない。

「なまえ!」

寮の玄関ドアが開いて五条先生が駆け寄って来た。ぎゅうぎゅうと苦しいくらいに抱き締められる。

「五条先生?」

「あの後、やっぱり送って行こうと思ってすぐ追いかけたのに、全然見つからないから焦ったよ」

「えっ」

「さっきまで誰といたの」

五条先生が真剣な顔つきで尋ねてくる。国宝級イケメンの真顔こわい。

「えっと、名前は聞けなかったんですけど五条先生の親友だって言ってました」

そう答えた私に、五条先生は複雑そうな顔をしながら静かな声で言った。

「傑はもう死んでる。僕が殺したんだ。去年の12月24日に」



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