「ごめん。起こしちゃった?」

頭を優しく撫でられる感触に促されて目を開けると、遠方に出張中だったはずの悟くんがベッドの縁に腰掛けていた。

「ううん、大丈夫。お帰りなさい悟くん」

「ただいま」

悟くんに向かって両手を差し伸べる。
私の意図を汲み取った悟くんが抱き起こしてくれたので、私は両手を悟くんの首に回して自分よりも大きな身体に抱きついた。
頬をかすめた雪の色をした髪からはシャンプーの甘い香りがする。
どうやら既にシャワーを浴びてきた後らしい。

「早かったね。もっとかかると思ってたからびっくりしちゃった」

「うん、クリスマスに間に合うように頑張ったんだよ。偉いでしょ」

悟くんの言葉で時計を確認すると、表示されていたのは、12月24日23時50分。

「これ」と、ラッピングされた箱を渡される。

「なまえが欲しがってたイブサンローランのクリスマスコフレ、予約しておいたから」

「パレット?リップ?」

「僕有能だから両方」

「凄い!ありがとう!」

「どういたしまして。もっと高い物でも良かったのに。お前は欲がないね」

「これで充分だよ。悟くんといると金銭感覚狂いそう」

「いっそ財布同じにしちゃう?」

「えっ、どういう意味?」

「鈍いなあ。まあ、そんなとこも可愛いけど」

くいと顎を持ち上げられてキスをされる。
軽く触れるだけのそれは、けれども私をときめかせるには充分過ぎるほど甘いものだった。
悟くんのキラキラ輝く青い宝石のような瞳が優しく私を見下ろしている。

「結婚しよう」

「えっ」

「僕と結婚して」

「ちょ、ちょっと待って」

「待たない。返事は、はいかイエスで」

寝起きの頭にこの突然のプロポーズは強烈すぎた。頭が追いつかない。

「私でいいの?」

「今更それ聞く?自分で言うのもなんだけど、僕、めんどくさい男だから、一緒にいたいって思える相手じゃないと側には置かないよ」

「でも……」

「でもじゃない。はいかイエス」

「は、はい」

「うん。僕最強だから安心してお嫁に来なよ」

ぎゅうぎゅうと抱き締められて、悟くんの大きな身体のぬくもりに包み込まれる。

自然と視線が時計に吸い寄せられ、12月25日に日付けが変わったのが見えた。

「メリークリスマス、悟くん」

「メリークリスマス、僕の可愛い奥さん」

「ちょっと気が早くない?」

「いいのいいの。もう決定事項だから」

逃がさないよ、と笑われて、ちょっとだけ怖くなったことは秘密にしておこう。

とりあえず、渡しそびれてしまった悟くんへのクリスマスプレゼントと作って冷蔵庫にしまってあるランゴ・オ・ショコラの出番はまだ先になりそうだ。




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