いつも通りの任務のはずだった。
苦戦はしたけど、同行していた五条先生からのアドバイスもあって何とか祓うことが出来たのだが。

「えっ?」

急に足下が消えたと思ったら、次の瞬間には真っ暗な空間に放り出されていた。
落ちていく!と慌てた私の身体は、しかし、いつの間にか移動していた五条先生に抱き上げられたことで落下を免れた。

「五条先生!」

「領域展開?いや、少し違うか」

先生が呟いたのと同時に空間が歪み、辺りの景色が戻って来る。
だがそれは先ほどまで居た廃屋の中ではなかった。
一面に広がるのは夜空。
そして足下には連なる山並みと平原。
そこには線路が続いていて、一台の列車が横倒しになっていた。
それだけならば、脱線事故かと思ったところだが、先頭車両近くで誰かが戦闘を行っているのが見えた上に、この気配は──

「呪霊?」

「似てはいるけど違うね」

「あっ、あの子怪我してるみたいです。助けないと!」

「やれやれ……ほら、行っておいで」

ため息をついた先生が私を地面に降ろしてくれたので、そのまま倒れている少年に駆け寄った。

「大丈夫?怪我してるところ見せて」

「俺は大丈夫です。でも、煉獄さんが……!」

少年の視線の先には、炎のような裾模様がある白い羽織を着た男性がいて、満身創痍の状態で『何か』と戦っていた。

「五条先生!」

「可愛い生徒の頼みだから仕方ないね。怪我人は任せたよ」

「はい!」

「はいはーい、ちょっと失礼しますよー」

一瞬の間に両者の間に割って入っていた先生が『何か』を容赦なく蹴り飛ばす。
それは木々を薙ぎ倒しながら森の中に吹っ飛ばされていった。

「加勢感謝する!だが、あれは鬼だ!この日輪刀で首を斬り落とすか、陽光で焼かなければ倒せない!」

「へえ。じゃあ、太陽が出るまでに塵にしちゃおうか」

先生が鬼と呼ばれたものを追って行ったので、私は少年が煉獄さんと呼んでいた男性の治療をすることにした。
轟音が鳴り響き、背後の森が波動砲で撃ち払われたみたいになっているのがわかる。
先生、『赫』使ったんですね。

「怪我を治しますね。ここに座って、ちょっとじっとしていて下さい」

「君は医師か?」

いえ、と答えながら煉獄さんの傷に手をかざす。
反転術式でみるみる内に傷口が塞がっていくのを感じとったのか、煉獄さんは目を見張って私を見た。
損傷していた内臓と潰された左目も治してほっと息をつく。

「どこか他に痛むところはありませんか?」

「大丈夫だ。ありがとう」

先ほどまでの鬼気迫る表情から一転して穏やかな笑みを浮かべて煉獄さんが答えた。
笑顔はあどけなく見える。たぶん先生より若いんじゃないかな。

「申し訳ないが、そこにいる竈門少年も治療してもらえるだろうか。他にも怪我人が沢山いる」

「わかりました。任せて下さい」

煉獄さんと一緒に竈門くんのところへ戻り、竈門くんの腹部の刺し傷に反転術式を使う。

「ありがとうございます。煉獄さんも……良かった」

この調子で一人一人治療していたら時間がかかりそうだ。となれば、やることはひとつしかない。

手で印を結び、意識を集中する。

「──領域展開『聖域』」

地面に呪印が浮かび上がり、青白い聖光を放ち始める。
これで範囲内にいる対象全ての傷を癒すことが出来る。
そう説明すると、煉獄さんは感心しきった様子で私を見つめた。

「君はまるで天女だな」

「そんな大袈裟なものじゃないですよ。ただの呪術師で、す……」

ふらついた身体を煉獄さんが抱き支えてくれる。

「大丈夫か!?」

「はい……ちょっと呪力を使い過ぎちゃっただけで……寝れば治りますから」

「そうか、安心して休むといい。君のことは俺が守ろう」

煉獄さんが優しく言いながら私を抱き上げた。
えっ、ちょっと、会ったばかりの男の人にお姫様抱っこされるとか、恥ずかしいんですけど!

「はーい、そこまで。この子は僕のだから手を出さないように」

一瞬の内に私は煉獄さんの腕の中から五条先生の腕の中へと移動していた。

「先生、鬼は……?」

「祓ったよ。あれ食らって生きてるとしたら相当な生命力だね」

それより、と先生が続ける。

「さっき確認したけど、ここは大正時代らしい」

「えっ、大正時代?私達タイムスリップしたんですか?」

「ただのタイムスリップじゃなくて、どうも異世界に来たっぽいね」

「異世界?縦軸だけじゃなく横軸にも移動したってことですか?」

「さすが僕の生徒。優秀だねえ」

煉獄さんが割って入ってきた。

「彼女は君の恋人か?」

「うん、そうだよ」

「先生……息をするように嘘をつかないで下さい。ただの教師と教え子でしょう」

「いまはね。卒業したらお前には僕の子を生んでもらうから。これは決定事項だよ」

「教え子に手を出すのは感心しないな!」

「ん?君には関係ないよね?」

「彼女は俺の命の恩人だ。恩を返すためにも、こちらに身柄を預けてもらいたい!」

「えー、もしかしてこの子に一目惚れ的な?」

「否定はしない!」

「俺、俺も煉獄さんを応援します!」

竈門くんまで出て来ちゃったよ。

「とにかく、なまえは僕のだから。諦めてくれる?」

「なまえというのか。良い名だな!」

「ちょっと、気安く呼ばないでよ」

そんなことより、これからどうしたらいいのかを話し合いましょうよ……。
先生と煉獄さんが言い合っている声を聞きながら、私は急速に眠りの中に落ちていった。


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