爽やかとは言い難い朝だった。

空はどんよりしているし、初夏だというのに肌寒い。
いつまでも布団の中でぐずぐずしていたい気持ちを振り切ってベッドから降りる。
シャワーを浴びたら、少しは気分がましになった。
しかし、ドライヤーをかけようとして、それが壊れてしまっていることに気が付いた野薔薇は舌打ちした。
仕方なくタオルドライしただけで服に着替えて部屋を出る。

向かうのは、一番近いなまえの部屋だ。
ノックをして声をかける。

「なまえ先輩、起きてますか?ドライヤー壊れちゃったんで貸して欲しいんですけど」

少し間があってから、ドアが開いた。

「おはよ、野薔薇」

嫌というほど聞き慣れた声。
出て来た人物はなまえではなかった。
なまえは小柄な少女だが、いま目の前にいる男は見上げるほどにデカい。
たったいま急いでズボンだけ履きましたといった風情の、サングラスも目隠しもしていない上半身裸の五条悟がドアの向かうに立っていた。

「ドライヤーだっけ?ちょっと待ってて」

まるで自分の部屋であるかのような躊躇いの無さで洗面台からドライヤーを取って来た五条は、「はい、これ」と、フリーズしたままの野薔薇に手渡した。

部屋の奥にあるベッドの布団には膨らみがひとつ。布団にくるまって眠っているなまえに間違いない。
布団で隠れて見えない彼女の胸から下が素肌のままかどうかは推して知るべしだ。

「なにやってんのよ、この淫行教師っ」

「静かに、野薔薇。なまえが起きちゃうよ。昨日遅かったからもう少し寝かせてあげて」

野薔薇はたちまち目の前の担任に食ってかかったが、しーっと長い指を立てた五条にたしなめられる。
ぐっと文句を飲み込んだ野薔薇の前で、五条はいまの騒ぎで起きてしまっていないかベッドのほうに視線を向けた。
それは、見ていた野薔薇が息を飲むほど美しく、優しく慈しむような眼差しで。

「それじゃ、また後でね」

はっと我にかえった時には既に無情にも目の前でドアは閉められてしまった後だった。
ドライヤーを手に固まった野薔薇を廊下に残して。

「…………ちょっと…………マジなの」



一方、五条は足音も立てずにベッドに歩み寄っていた。
なまえはまだ眠っている。
愛おしさを掻き立てられる無垢なその姿に、フッと笑って五条は彼女の頬にキスを落とした。

「バレちゃったけど、まあいいよね。野薔薇だし。いずれは皆にバラすつもりだったし」

「んん…………せんせぇ……?」

「あっ、ごめん。起こしちゃった?」

ぽやぽやとした顔で緩慢なまばたきを繰り返すなまえの頭を優しく撫でてやる。
五条の大きな手に頬をすり寄せたなまえが可愛くて、今度は唇にキスをした。
柔らかいそれをついばみ、角度を変えては何度も口付ける。

「ん……ぁ…………んぅ」

開いた唇の隙間から舌を入れると、五条が教え込んだ通りに辿々しく舌を絡ませてくる。
だから、ついエキサイトしてしまった。

「せんせ、苦しい」

「うん、ごめんね」

ちっとも悪いと思っていない顔で謝ると、可愛らしく、めっと怒られる。
怒った顔さえ可愛いのだから堪らない。
五条は自分の表情が甘く蕩けているのを自覚しながら、キスで濡れたなまえの唇を親指でなぞった。
目元がほんのり赤く染まった様子がとても美味しそうだ。

「朝からそんなキスされたら、またしたくなっちゃう」

「いいよ。しよっか」

「遅刻しちゃうからダメです」

ベッドの上で上半身を起こしたなまえを見て、少し残念な気持ちになる。

「えー、もう起きるの?」

「だって、支度しないと」

「もう少しだけ。ね、いいでしょ?」

雛鳥のようにあたたかいなまえの身体を懐に抱き込んで、やや強引にベッドに横になると、小さなため息が聞こえた。

「もう、しょうがないなあ」

「そうこなくちゃ。愛してるよ、なまえ」

この後めちゃくちゃセックスして遅刻した。



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