※夏油生存if


待ち合わせ場所に着くと、久しぶりに会う友人である硝子ちゃんと一緒に何故か知らない男の人が二人いた。
しかも二人ともタイプの違う長身の美形だったからかなり目立っている。

「どういうこと?合コンなんて聞いてないよ」

「そんな大袈裟なものじゃないって。ただ一緒にご飯食べるだけだから」

ひそひそ話していると、長めの黒髪を後ろでハーフアップにしているほうの男性と目が合い、にっこり微笑まれた。
あれは全部わかっているよという顔だ。
私はため息をついて、掴んでいた硝子ちゃんの手を離した。

「……今日だけだからね」

場所をレストランに移して『お食事会』は和やかに続いていた。
レストランというといささか語弊があるかもしれない。
男性二人にエスコートされて来たのは、雑誌やテレビでセレブ御用達として紹介されていた有名なフレンチの個室だったからだ。
三人とも完璧なマナーで優雅に食事をとりつつ、旧知の仲のように親しげに談笑している。
それも当然か。硝子ちゃんの話によると、彼らは二人とも彼女と高専で同期だった上に、いまはその高専で教鞭をとっている先生だということだから。

「もっとくだけた雰囲気のお店のほうが良かった?」

五条悟さんと名乗った、白い髪に青い瞳の国宝級の美貌を持つ男性が私に話しかけてきた。

「硝子がなまえちゃんを紹介してくれるって言うから、僕張り切っちゃった。居酒屋が良ければこのあと移動してもいいよ?」

「あ、いえ」

「そんなに緊張しないで。って、無理か。まあ、せっかくだから楽しんでよ」

確かに五条さんの言う通りかもしれない。
せっかくだから楽しまなければ損だ。

「ねえ、なまえって呼んでもいい?」

「えっ、あ、はい」

「じゃあ、なまえも僕のこと悟って呼んで」

「いえ、それはちょっと……」

「こら、悟。困らせてはいけないよ」

すかさず夏油さんが五条さんを窘める。
どうやら彼は五条さんのブレーキ役のようだ。
物腰が柔らかくて優しい話し方をするから、きっと女の子にモテまくりなのだろう。

「私もなまえと呼んでいいかな」

「あ、はい」

「ありがとう。今日はすまなかったね。急なことで驚いただろう?」

夏油さんが申し訳なさそうに微笑む。
それはもうびっくり仰天だった。

「実は私と悟が硝子に頼んだんだ。君と逢わせて欲しいとね」

「えっ」

「中学を卒業した後、君はずっと硝子と動画やメールをやり取りしていただろう?それに悟が興味を持って半ば無理矢理見せてもらったんだけど、私も悟もそれがきっかけで君のことを知ったんだ」

「そうだったんですか」

「すぐに夢中になったよ。とても優しくて可愛い子だなって」

そういう夏油さんのほうがよほど優しそうに見える。

「そんな……私なんてどこにでもいる普通のOLですよ」

「謙虚だね。そんなところも好きだよ」

「おい、傑、抜け駆けすんな。先になまえを好きになったのは僕だから!」

「それは聞き捨てならないな。私のほうが先になまえを好きになったんだ」

ええ……何か急に喧嘩し始めたんだけど。
もしかして、私いま口説かれてる?

「もしかしなくてもそうだよ」

「ひえっ」

心を読まれた!?

「それに、普通のOLには呪霊は見えない」

「じゅれい?」

「呪われた霊と書いて呪霊。君が見えているおかしなものの呼び名だ」

思わず助けを求めて硝子ちゃんを見ると、彼女は大丈夫というように頷いてみせた。
なので、私は渋々ながらソレが見えることを認めた。

「危ない目に遭う前に五条達にも話しておいたほうがいいと思ってね」と、硝子ちゃん。

「心配いらないよ、なまえ。これからは僕が守ってあげるから」

「大丈夫だよ、なまえ。私が君を守るから何も心配しなくていい」

異口同音にそう言って、二人はテーブルの上に置いていた私の手に自分の手を重ねた。
そして、お互いに睨み合う。

「傑、邪魔」

「邪魔だよ、悟」

「まあ、この通りクズ共だけど、頼りになるのは間違いないから安心しなよ」

「硝子ちゃん……ありがとう」

今日の食事会も、私を心配して五条さん達に逢わせてくれたんだね。
持つべきものは友って本当なんだなあ。

「なまえ、連絡先を交換しよう」

「なまえ、連絡先を交換しよ」

夏油さんと五条さんがほぼ同時に言った。

「気が向いたらでいいから返信してやってくれ」

硝子ちゃんが苦笑しながら私に耳打ちする。
私は笑って頷いた。

「じゃ、二軒目行こっか」

「君は下戸だろ、悟」

「うん。僕はノンアルコールで」

四人で笑いあいながらお店を出る。
お会計は?と硝子ちゃんを見たら、五条さんのおごりだということだった。
慌ててお財布を出そうとした私を夏油さんが「いいんだよ」と優しく止める。

「悟はああ見えて呪術界最強でね。特級呪術師としてそれなりに稼いでいるから、ここは素直におごられてあげてくれ」

「そういう傑も特級呪術師だよ」

五条さんが言った。

「僕と同じくらい稼いでるから欲しいものがあったら何でも言いなよ」

「良かったな、なまえ。財布が二つも手に入って」

硝子ちゃん、その冗談は笑えないよ。

その後、五条さん達行き付けだという居酒屋さんに連れて行ってもらい、四人でおおいに飲んで楽しく過ごした。

帰宅してから五条さんと夏油さんからメールが来て、楽しかったよ今日はありがとうというお礼とともに両方からそれぞれデートに誘われたのだけど、この場合はどうしたらいいのでしょうか。硝子ちゃん。



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