「18歳になったら結婚しよう」

日曜日の早朝のことだった。
濃密な情事の余韻に酔いしれ、うとうとと微睡んでいた私の髪を優しく撫でながら傑くんがそう言ったのは。
深夜から明け方まで続いた行為は私から完全に思考力を奪っていた。
私を胸に抱いたまま答えを待つ傑くんに、何とか返せた言葉はというと。

「が、学生結婚になるけど……」

「そうなるね。ダメかな?」

「だ、だめじゃない」

せっかくのプロポーズなのに、気の利いた返事の一つも返せない自分が情けない。
でも、青天の霹靂とはまさにこのことで、まさか傑くんがそこまで考えていたなんて全く思いもよらなかったのだ。

傑くんは頭がいい。
ただ勉強が出来るというだけではなく、戦闘時には相手の一手先どころか三手先まで見通して、自分に有利な状況に持ち込むことも少なくない。
一を聞いて十を知るという言葉があるが、私が少し話しただけで話の全貌を把握出来ていたりする。
悟くんに言わせれば、地頭が良いのだそうだ。まるで自分のことのように誇らしげに語っていたのを思い出す。さすが親友といったところか。
私も硝子ちゃんのことを人に話す時はこんな感じなのかもしれない。

とにかく、その頭がいい傑くんが私とのことを将来まで見越して考えていてくれたことが嬉しかった。

「あのね、私も傑くんのことが大好き」

「私と結婚してくれる?」

「もちろん、喜んで」

「ありがとう。嬉しいよ」

傑くんはまるで魔法のようにどこからか天鵞絨のケースを取り出すと、中から指輪を出して私の左手の薬指に嵌めた。
驚いたことにサイズもぴったりだ。

「無駄にならなくて良かった」

指輪を見て驚いている私にキスをして傑くんが言った。
惚れ惚れするような笑顔にうっかり流されかけたけど、これ、もしかしなくてもダイヤモンドじゃないのかな。めちゃくちゃ高そう。

「普段は指に嵌めておけないだろうから、これに通して身につけていてくれ」

傑くんが銀色のネックレスを取り出したので、その用意周到ぶりにまたまた驚かされた。

「夜蛾先生にはまだ内緒だよ」

「うん」

「悟と硝子は知っているから」

悟くんはわかるけど硝子ちゃんまでか。
複雑な顔になった私の頭を傑くんが優しく撫でてくれる。

「外堀から埋めて行こうと思ってね」

断られたら悲しいだろう?と言って傑くんは微笑んだ。

「断ったりしないよ」

「うん。でも、まだ早すぎると言われる可能性があっただろう」

確かによく考えてみればあまりにも早すぎる話だった。
傑くんにぐずぐずに甘やかされて、とろとろに蕩けさせられた後の、まだ頭がちゃんと働いていない時を狙いすまして言われたため、疑問に思うことさえしなかったのは傑くんの策の内か。

そう思いながら傑くんの顔を見ると、彼は菩薩もかくやというほど慈愛に満ちた微笑を浮かべて私を見つめていた。
なるほど。全て傑くんの手の平の上ということですね。

「愛しているよ、なまえ。ずっと一緒にいよう」

傑くんが私の左手の薬指に嵌められた指輪に恭しく口付ける。

私の彼氏の愛が時々怖い。



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