目覚まし時計に頼ることなく自然に目覚めた私は、隣で眠る建人さんを起こさないようにそっとベッドから抜け出した。 一緒に暮らすようになってわかったことだが、建人さんは寝起きがあまり良くない。 それに昨夜は遅くまで任務だったから尚更だ。それでなくても今日は久しぶりの休日なのでゆっくり眠らせてあげたい。 お互いカレンダー通りに休める仕事ではないので、今日のような二人揃ってのお休みは貴重だ。 買ったまま読まずに積んである本に目を通すのも良いし、映画を観に行くのもいいだろう。 でも、その前に。 昨夜は帰って来てシャワーを浴びてすぐに眠ってしまったから、きっとお腹がすいているに違いない。 起きた時にすぐ食べられるように朝食の用意をしておいてあげようと、私は身支度を整えるとすぐにキッチンに向かった。 コトコトと鍋が音を立ている。 一口大に刻んだ野菜を入れたコンソメスープが出来上がると、こちらもフレッシュな野菜を盛り付けたサラダに網目状にドレッシングをかける。 チーズを入れたオムレツをフライパンの中でひっくり返し、ジュウと焼く。 お皿に乗せたところで一旦手を止め、建人さんを起こしに行った。 寝室に入ると、建人さんはまだ眠りの中だった。 ふんわりとした金髪が柔らかそうで、思わず触れてしまう。指通りの良いそれを指で梳いて流しても、建人さんは穏やかな顔で眠ったままだ。 何だか起こしてしまうのがもったいないような気がしてその寝顔を眺める。 「そんなに見ても楽しいものではないでしょう」 どうやら起きていたらしい。 建人さんがゆっくり目を開けた。 少し掠れた艶のある声がセクシーだ。 「おはようございます、なまえさん」 「おはようございます、建人さん」 ご飯出来てますから、支度をしてきて下さいね。 まだどこかぼんやりとしている建人さんに笑ってそう言い置いてキッチンに戻る。 スープをスープボウルに注ぎ入れ、出来上がった料理をテーブルに並べたところで、ちょうど良いタイミングで建人さんがダイニングルームに入って来た。 建人さんは既に身支度を整えていて、いつものスーツではなく、白いシャツにベージュのスラックスを合わせた休日らしいラフな服装だ。 「何か手伝うことはありますか」 「大丈夫ですよ。座って下さい」 トーストをトースターにセットしながら、おはようのキスを交わす。 建人さんが使っているシェービングクリームの匂いがした。 二人で向かい合わせにテーブルにつく。 「昨日のお仕事どうでした?」 「久々の時間外労働でしたが、まあ上手くいきましたよ」 建人さんは自らに時間による“縛り”を科していて、普段は呪力を制限しているが、彼の定めた時間を超えて仕事が長引くと呪力が増していくのだ。 建人さんにボコボコにされたであろう呪霊にちょっとだけ同情した。 「貴女のほうはどうでしたか」 「あ、聞いて下さい。五条さんてばひどいんですよ」 「あの人が酷い人なのは昔からでしょう」 そう言いながらも、建人さんは一通り話を聞いてくれた。 冷徹に見えて本当は優しい人なのだ。 「それで、五条さんが」 いきなり身を乗り出してきた建人さんにキスをされた。びっくりしている私に、 「すみません。嫉妬しました」 なんて、顔色も変えずに言うものだから、内心身悶えてしまった。建人さん可愛い。 大人オブ大人なイメージのある建人さんだけど、普段は厳しく自己を律しているだけで、意外と焼きもちやきさんだったりする。 「私には建人さんだけですよ」 「わかっています。それでも他の男に嫉妬せざるを得ないほど貴女は魅力的なんですよ」 自覚して下さい、と言われても。 建人さんのほうがよほど魅力的だと思います。 「それより、今日はどうします?何か予定があるなら付き合いますが」 「そうですね……」 スープを一口掬って考える。 柔らかく煮込まれた野菜から溶け出した旨みたっぷりのコンソメスープは、身体にしみわたる美味しさだ。 「ゆっくり読書もしたいですし、お出かけもしたいような」 「両方でいいのでは?午前中は読書をして過ごして、午後から映画でも観に行きましょう」 「さすが建人さん。そうしましょう」 こうして、私と建人さん二人きりの休日は穏やかに始まった。 |