※夏油生存if


「細胞硬化症」に罹患してしまった。
現時点においては治療法がなく、不治の病とされている病気だ。
しかし、希望はあった。
ある製薬会社で治療薬の開発が進められていたのである。
貴重な反転術式の使い手を失うのは惜しいと判断した上層部により、私は治療薬が完成するまでの間コールドスリープで保存されることになった。

「大丈夫、必ずまた逢えるよ」

「絶対に治療薬完成させるから、寝て待ってろ」

「傑くん……悟くん……ありがとう」

コールドスリープのためのカプセルに入り、仰向けに横たわると、薄いオレンジ色の溶液が流れ込んできてカプセル内を満たし始めた。
冷たい。息苦しい。
寒さと狭い空間に閉じ込められているせいでパニックになりかけた私を、ガラス越しに二人が優しい声をかけて落ち着かせてくれた。
段々眠くなってくる。オレンジ色の溶液は既に胸の辺りまできていた。

「おやすみ、なまえ」

それはどちらの声だったのか。
私は深い眠りに落ちていった。




──ピピ、と小さな電子音とともに、意識が浮上する。
どうやらそれはコールドスリープ用の溶液を排出するための音だったらしく、カプセル内を満たしていたオレンジ色の液体がみるみる内に無くなっていった。

「おはようございます、なまえさん」

特徴的な眼鏡を鼻に掛けている淡い金髪の男性が、カプセルの外から声をかけてくる。
どことなく既視感を感じる容姿だ。

「もしかして……七海くん?」

「そうです。よくわかりましたね」

冷静な態度を崩さないまま、でもほんの少しだけ優しさを滲ませた声で七海くんが言った。
コールドスリープしている間に私の後輩はすっかり落ち着いた大人の男性になっていた。

「あれから何年経ったの?皆は元気?」

「貴女がコールドスリープに入ってから十年が経っています。詳しい話は後ほど。まずはシャワーを浴びて着替えて下さい」



温かいシャワーを浴びると、冷えきっていた身体が文字通り生き返ったような気がした。
シンプルなワンピースに着替えた私を椅子に座らせて、七海くんは教師が生徒にそうするように、わかりやすく現在の状況をレクチャーしてくれた。

今日は2018年の10月10日。
私の細胞硬化症は完成した治療薬を投与したことで既に完治しているということだった。
それよりも問題だったのは、二年前に突如として発生した「FKウイルス」によって世界中にパンデミックが広がり、全世界の女性の99.9%を死滅させてしまったという残酷な事実だった。
そのウィルスに免疫があるのは細胞硬化症を治療した、私を含む五人の女性だけで、施設内で先に目覚めた女性の卵子を使って人工授精が試されたが、失敗に終わったこと。
しかし、セックスによる子作りには成功したこと。
結果、相手の男性と生まれてきた赤ちゃんの両方に免疫が出来たこと。
コールドスリープ中の硝子ちゃん達生き残りの女性達があと一年足らずでFKウイルスによって死亡してしまうこと。
それらを七海くんは淡々と説明してくれた。

「なまえ!」

ドアが開いて飛び込んできた悟くんに抱き締められる。
大きな身体は以前よりもガッシリしているが、国宝級の美しいご尊顔はあの頃から少しも変わっていない。童顔だからかな。

「逢いたかったよ、なまえ!無事に目が覚めて良かった!」

「こら、悟。そんなにきつく抱き締めたらなまえが苦しいだろう」

「あ、ごめん。なまえ、痛かった?」

「ううん、平気だよ」

悟くんが腕を緩めてくれたので、傑くんの声がしたほうを見ることが出来た。
そして、固まった。

「おかえり、なまえ」

「た、ただいま」

大人になった傑くんは……何というか、色気が半端なかった。
伸びた髪をハーフアップにしていて、優しく微笑みかける傑くんは、まさしく妖艶という言葉がぴったりだった。

「なまえには、これから僕達と子作りしてもらうから」

「エッ」

傑くんの色香にあてられてくらくらしていると、悟くんが衝撃的な言葉を発してくれた。
こ……子作り!?

「まずは僕の子を産んでね。六眼と無下限の後継者作りが急務っていうのもあるけど、単に傑とじゃんけんして僕が勝ったから、僕が一番ね」

「悟の次は私と子作りだよ。私の子を孕んで貰うまで抱き続けるから覚悟してくれ」

「エッ」

「何番目でも構いませんので、私も貴女のパートナーの末席に加えて下さい。優しくしますから」

「七海くんまで!?」

あまりの事態に咄嗟に逃げ出した私だが、彼ら相手に逃げきれるはずもなく、あっさり捕まってしまった。
その後に待ち受けていたのは──めくるめく淫欲の日々。



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