目を開けると、溜まっていた涙が溢れ出て流れ落ちた。
とても悲しい夢を見ていた気がするけど、よく思い出せない。
目が覚めた途端夢の内容を忘れてしまうのなんてよくあることだけど何故か気になった。どうしても思い出さなければならない──そんな気がして。

「なまえさん?」

寝室に入ってきた建人さんが少し驚いたような顔をしてベッドまでやって来て静かに腰を降ろした。伸ばされた手が私の髪を耳にかけ、指の背で優しく涙を拭ってくれる。

「どうかしましたか?身体がつらいのですか」

「大丈夫です。ちょっと悲しい夢を見ただけで」

「それなら良いのですが……いや、良くはないな。いまのあなたは大事な身体なのですから」

建人さんが優しい手つきでそっと私のお腹に触れる。そこははっきりそれとわかるくらいまあるく膨らんでいた。お腹の中に建人さんとの赤ちゃんがいるのだ。

「妊娠中は精神状態が不安定になることがあるようです。悪夢を見たのもそのせいでしょう」

そういうものなのかな。建人さんが言うのならそうなのだろう。

「何か温かい飲み物を持って来たほうがいいのでしょうが……すみません」

「大丈夫です、それより、少しだけでいいので側にいて下さい」

「あなたが眠れるまでずっと側にいますよ」

そう言いながら建人さんが手を握ってくれる。
そうして、もう片方の手で優しく頭を撫でられると、ほっとして身体から力が抜けていくのがわかった。

「虎杖君にも伝言を頼みましたが、あなたを愛しています、なまえさん」

微笑んだ建人さんが私の唇に優しくキスをする。

「大丈夫、きっと今度は良い夢が見られますよ」


目を開けると、溜まっていた涙が溢れ出て流れ落ちた。これで今日二度目だ。
でも、今度はどんな夢かはっきり覚えている。建人さんの夢だ。
彼が約束してくれた通り、泣きたくなるほど優しい夢だった。

夢の中で建人さんがそうしてくれたように優しくそっとお腹を撫でる。

時期的にみて、渋谷事変が起こったあのハロウィンの日に出来た子であることは間違いない。
建人さんと逢った、あの最後の日に。

当然避妊はしていたから、まるで建人さんからの最後のプレゼントのように奇跡的に出来た子だった。
エコー検査で男の子だとわかったから、建人さんに似ているといいなと思ったこの子が建人さんの忘れ形見になるのだと思ったらまた泣けてきてしまった。

「ごめんね、泣き虫なお母さんで」

これでは建人さんも心配になって夢に出てきてしまうはずだ。
この子のためにも、建人さんに心配をかけないためにも、もっとしっかりしなければと思いながらお腹の子に向かって微笑みかける。

「早く逢いたいな……産まれてきたら、あなたのお父さんがどんなに素敵な人だったのか、たくさんお話してあげるからね……」


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