ちんちんに真珠入ってそう。

合コンなんて大層なものではないが、仕事帰りに職場の先輩に誘われて行った飲み会で様々な職業の人達が入り混じってわいわい飲んでいる中、初めて夏油さんを紹介された時の第一印象である。
もちろん、そんなことを本人に言うつもりはなかった。しかし、言葉巧みに誘導されて、こちらもお酒が入っていたこともあり流れで白状させられてしまったのだった。

「ひどいな。そんなに遊んでそうに見えた?」

「いえ、まあ」

まさか、はいそうですとも言えず、曖昧に笑って誤魔化す。
それでなくとも女性陣からの視線が痛いのだ。
どうやら彼女達には私が夏油さんを独占しているように見えているらしい。肉食系女子怖い。
実際には、お触りするのが危険だとわかっているイケメンよりも紅ズワイガニのカニ鍋を食べるのに一生懸命なのだが。
だって、こんな機会でもないとカニ鍋なんて滅多に食べられないし。
そんな私を夏油さんは楽しそうに眺めている。たぶん珍獣でも見ている気分なのだろう。
確かに普通の女の子なら、カニ鍋よりも隣のイケメンに興味を持つに決まっている。

「胡麻ダレもあるよ」

「ありがとうございます」

夏油さんにお礼を言って、胡麻ダレが入った小皿を受け取る。早速それにカニの身をつけて食べてみた。
胡麻ダレも合うなあ。ズワイガニうまっ。

「美味しそうに食べるね。見ていて気持ちがいい」

「めちゃくちゃ美味しいです」

「今度一緒に食事に行こう。私がご馳走するよ。何か食べたいものはある?」

「あ、いえ、お気遣いなく」

にこやかに話しかけてくる夏油さんにそう答えると、ぶはっと誰かが派手に吹き出すのが聞こえてきた。通りすがりの五条さんだ。
トイレから戻って来たらしい五条さんはそのまま元の席には戻らず、テーブルを挟んだ私の向かい側に腰を降ろした。そこに座っていた伊地知さんを押し退けて。

「傑、全然相手にされてないじゃん。ウケる」

「いや、本当に手強いよ彼女は」

苦笑する夏油さんに「ふーん」と返した五条さんは店員さんにメロンソーダを頼んでいた。

「何しろ、私に対する第一印象が、ちんちんに真珠入ってそう、だからね」

「ぐふっ!」

来たばかりのメロンソーダを飲みかけていた五条さんが噎せて咳き込む。いまのタイミング、わざとでしょう夏油さん。

「お前、いつから真珠なんか入れてたの」

「さあ?」

とぼけてみせた夏油さんは日本酒を飲んでいる。かなり強いお酒のはずなのに、顔色も変えずに水でも飲むようにすいすい飲んでいるから、夏油さんはかなりの酒豪のようだ。

「ちょっと見せてみろよ」

「女性の前で下品だよ、悟」

夏油さんがやんわりたしなめるが、五条さんはテーブルに頬杖をついてニヤニヤしている。

「でも、その子が言い出したんだろ」

「まあね。なまえちゃんが望むなら見せても構わないけど、出来れば二人きりの時がいいな」

「傑、お前それセクハラ」

ケラケラ笑ってますけど、五条さんも同類ですからね。
この人が日本経済を陰から牛耳っていると噂される五条グループのCEOだと言うのだから、世の中本当にわからない。
ちなみに、夏油さんはその五条さんの右腕なのだそうだ。私の隣に座ってきた時に本人から教えてもらった。

その後すぐ二人の同期だという家入さんが来て、そろそろお開きだと言って二人を連れて行ってくれたのだが、席を立つ間際に夏油さんからさりげなく連絡先が書かれたメモを渡されてしまった。
飲み会を無事終えて帰宅した私は、シャワーを浴びるなりベッドに直行したため、そのメモはバッグの中で眠ることになったのだった。

しかし、それから三日後。
私はメモの存在を思い出すことになる。
何故なら

「何か騒がしいね」

「外に凄いイケメンがいるんだって。誰か待ってるみたい」

仕事が終わり、ロッカーで着替えた私は聞くともなしに同僚の会話を耳にしながら外に出た。
そして、すぐに後悔するはめになった。

「や。来ちゃった」

夏油さんが死角になる場所から現れたからだ。その瞬間の私は「げえっ、関羽」みたいな顔になっていたと思う。
しかし、夏油さんは私の反応など気にした風もなく、さりげなく私の腰に手を回して引き寄せたかと思うと、そのまま何処かに向かって歩き始めた。

「なかなか連絡が来なかったから、迎えに来たよ」

「げ、夏油さ、」

「それで、何が食べたい?」

「温かくないお蕎麦で……!」

これは逃げられないなと悟った私は、なるべくムーディな雰囲気にならなそうな食べ物を選んだつもりだったのだが、何故か夏油さんは嬉しそうに笑っていた。

「私の好物なんだ、温かくない蕎麦。やはり私達は気が合うね」

「そ、」

「その後かい?それはもちろん決まっているさ」

夏油さんが艶めいた甘い美声で私の耳元で囁く。

「私のものに真珠が入っているかどうか確かめてみてくれ。ベッドの中で、ね」


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