終わりは失墜に似ていた。
遥かな高みまで駆けのぼった後、現実に向かって緩やかに墜ちていくような、そんな錯覚。
傑くんの背中に回して縋りついていた手と、同じく彼の腰に絡みつかせていた脚から力が抜けて、くたりと布団の海に沈み込む。
呼吸もままならない私に対して、傑くんは僅かに息を乱しているだけなのがまた憎らしい。

満足そうな笑みを浮かべた傑くんの唇が私の唇に重ねられる。
我が物顔で口内をねぶる舌は熱くて、せっかくクールダウンしかけた身体にまた火がつきそうになる。

「も、だめ……」

「そうだね。つい夢中になりすぎて食事の時間を過ぎてしまった」

厚い胸板を押し退けようとしたが、意外にも抵抗はなくそれは密着していた私の肌から離れて行った。
離れてゆくぬくもりをほんの少しだけ名残惜しく感じながら素肌に襦袢を纏う様子をぼんやりと眺めていると、手を取られて恭しく口付けられる。

「少し待っていてくれ」

そう言い置いて、傑くんは隣接している浴室に入って行き、そうしてすぐにお湯を入れた桶とタオルを持って戻って来た。

「そのままじっとしていて。綺麗にしてあげよう」

お湯を絞ったタオルでまず最初に涙と涎でぐちゃぐちゃになっているはずの顔を丁寧に拭われる。
それから、幾つも赤い印が刻みつけられた首筋から胸にかけてを拭かれていく。
傑くんに散々吸い転がされて甘噛みされた乳首は、再び快感を引き出そうとしているのではと思うほど念入りに。
お腹は優しく、脚の付け根や、傑くんを受け入れていた場所は更に優しく。
何度もお湯で絞り直しながら全身を隈無く拭き清められていく様子は、何かの儀式を行なっているようにも感じられた。

「とりあえずこれで我慢してくれ。食事を終えたら一緒に風呂に入ろう」

「一緒はやだ……」

「ふふ、恥ずかしいのかい?」

そうじゃないってわかってるくせに。
傑くんは意地悪だ。

「君は本当に可愛いね」

私にもう一度キスをしてから傑くんはこの部屋の唯一の出入口である引き戸を開けた。
外にいた誰かと二言三言、何か話して、それから御盆に乗せられた食事を持って私の傍らに戻って来る。

「お待たせ。さあ、食事にしよう」

傑くんがいる間は引き戸の鍵は開けられているけど、傑くんがいるから外に出ることは出来ない。
傑くんがいない間は引き戸には鍵が掛けられていて、見張りも置かれているから外に出ることは出来ない。

「何から食べる?煮物からでいいかな。里芋が美味しそうだよ」

ため息をついた私に、私をここに閉じ込めている張本人である傑くんはそれはもう甲斐甲斐しく食事を食べさせてくれるのだった。



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