夢の中で、私はお姫様にするように五条先生に抱き上げられて夜空に浮かんでいた。

何故夢だとわかったかと言うと、先生はいま出張中のはずだし、何より真冬なのに少しも寒さを感じなかったからだ。
まるで毛布にくるまれているように先生の腕の中はあたたかい。
辺りには美しく輝く星々がまたたいていて手が届きそうなほど近くに見える。

「あれが欲しいの?」

先生が星に向かって手を伸ばし、何かを掴むように拳を握った。
こちらに差し出された拳を開くと、手の平の上には仄かに発光している星型の金平糖がころりと乗っていた。

「あげる。甘くて美味しいよ」

夢の中でもやっぱり甘いものが好きなんですね、と思わず笑ってしまう。そんな五条先生のことが好きで好きで堪らなかった。


「おはよ」

目が覚めると、目の前に先生の綺麗な顔があって驚きのあまり心臓が止まるかと思った。

「え、あ、おはようございます?」

「あはは、なんで疑問形なの」

「だって、まだ出張中のはずじゃ」

「僕有能だから早く終わらせてきちゃった」

「そうだったんですね。おかえりなさい、五条先生」

「うん、ただいま」

両腕を広げてみせた先生に応えるようにその胸に抱きつくと、ぎゅーっと抱き締められる。本当に帰って来たばかりらしく、先生からは冷たい冬の夜の匂いがした。
先生の身体に残った夜の名残を消し去るように、その大きな身体に腕を回して密着しながら広い背中を撫でさする。少しでも私の体温であたためられるように。

「はー、あったかい」

「お布団入ります?」

「入る入る、入っちゃう」

腕に抱いた私ごと、先生が布団の中にいそいそと潜り込む。
先生が私の部屋に来るようになってからセミダブルに買い換えたベッドは、ぎゅうぎゅうにくっついていてもやっぱり少しだけ窮屈だった。日本人離れした長身で体格もいい先生が規格外の大きさなので仕方がない。

「夢の中に先生が出て来たんです」

私が夢の内容を話して聞かせると、先生は優しく笑って額と額をこつんと触れ合わせた。先生の白い髪が当たって少しくすぐったいけど幸せな気分だった。

「そんな夢を見てたんだ。可愛いねえ、なまえは」

可愛くて堪らない、みたいな顔をされると何だか今更ながらに恥ずかしくなってしまう。
細められた目も笑みを刻んだ唇も、先生の全部が、お前が愛おしいと私に訴えかけてくる。愛されているのだと実感出来る。

「そんなに僕のこと好き?」

頷くと、柔らかさを確かめるみたいに親指の腹で下唇をふにふにと押された。
それから指の代わりに先生の唇が柔くそこを食んだ。ちゅっ、と音を立ててキスをした先生が微笑む。
白銀の長い睫毛に縁取られた青い宝石のような先生の目が、キラキラ輝きながら私を見つめていた。

「空中散歩か。いいよ」

先生が言った。

「いまは寒いからダメだけど、春になったら連れて行ってあげる」

「本当に?」

「うん。約束」

先生は笑って指切りをしてくれた。
長くてしっかりとした先生の指が私の小指を絡め取る。ままごとのようでいて、その実、これは確かな“縛り”なのだった。

「可愛い恋人の願いは全力で叶えてあげないとね」

いまからもう春が来るのが待ち遠しい。



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