※夏油生存教師if


寒波のせいで寒い。例年よりも早くオホーツク海に流氷が押し寄せるほど寒い。
二十五になっても未だに彼氏すらいない私は心の中まで冷え込んでいた。このままでは凍えてしまいそうだ。
独り身の寂しさに耐えかねた私は、同期の伊地知くんに頼んでお見合い相手を探して貰うことにした。
同じ補助監督同士なら上手くいくのではないかと思ったからだ。

その勘は当たっていた。

伊地知くんが紹介してくれたお見合い相手は穏やかで真面目そうな人で、それでいて茶目っ気もある、これ以上はないというほど私の理想にぴったりの男性だった。

二人とも補助監督ということもあり、会話も弾んだし、結婚後のビジョンについてもお互いに問題なくすり合わせていけそうだった。

「それにしても信じられないな」

お見合い相手の男性は軽く笑って言った。
笑顔が素敵な人だ。

「あなたのような人が今まで交際相手がいなかったなんて、とても信じられない。あ、いや、良い意味でだよ」

実はこれまでもいい感じになりかけた人がいなかったわけではないのだが、とある理由からことごとく残念な結果になってきたのだった。

私が説明しようと口を開きかけた時、突然襖が左右にパーン!と勢いよく開かれて、見覚えのある、出来れば見なかったことにしたい人物二人が部屋に踏み込んで来た。
誰だ、と問う必要もなかった。
二人を目にしたお見合い相手の男性は、ひたすら困惑した様子で彼らを見上げている。
──特級呪術師、五条悟と夏油傑を。

「私達がいない間に伊地知に頼んでお見合いをセッティングして貰うなんて、悪い子だね」

切れ長の瞳を細め、声ばかりは優しげに語りかける夏油さんに、私は心の底から震え上がった。

「ど、どうしてお二人がここに……出張中のはずじゃ……」

「お前がお見合いするなんて言い出したから秒で終わらせて来たよ」

目隠しを指で引き下ろしながら五条さんが言った。
なんということだ。
確か、かなり厄介な案件だったはずなのに秒で終わらせるなんて。やっぱり特級呪術師こわい。恐ろしい人達だ。

「伊地知は後でマジビンタね」

ごめん!伊地知くん!許して!まさかこんなに早くバレるとは思わなかったの!
そうなのだ。今まで交際に発展する前にこの人達によってことごとく潰されてきたのである。今度こそは上手くいくと思ったのに。

「まだわかってないみたいだね」

身長差も体格差もある最強コンビに見下ろされている私はまるで蛇に睨まれた蛙状態だった。
逃げ出したいのに身動きもままならない。

「お前に与えられた選択肢は、僕と結婚するか」

「私と結婚するかの二択だよ」

「そ、そんな……!」

五条さんも夏油さんも、自分と同じ人間というカテゴリーに入れるのも畏れ多い、神様みたいな人達だ。私ごときがお付き合いするだとか、ましてや結婚だなんてとんでもない。

「なんのために僕達が今までお前に近付く男どもを蹴散らしてきたと思ってんの」

「心から君を愛しているからだよ」

五条さんと夏油さんが私の傍らに屈み込む。
夏油さんが私の手を取って指先に口付けを落とし、五条さんが指でくるくると私の髪を弄びながら首を傾げてみせる。

「そんなに僕達と結婚するのは嫌?何が気に入らないの」

「ち、違うんです」

煌めく六眼に真っ直ぐ見据えられた私は必死にいい募った。

「お二人が気に入らないとか、そういうわけじゃなくて」

「わかっているよ」

夏油さんが優しく微笑んで言った。
緊張で強張っていた身体から自然と力が抜けていくような、甘く優しい声だった。

「セックスの相性が合うかどうかは大事なことだからね。こればかりは試してみるしかない。そうだろう?」

全然わかってなかった。
違う、違う、そうじゃない、と言いたいのに恐ろしくて声にならない。

「なんだ、そういうこと」

五条さんが納得したと言うように明るく言ってぽんと手を叩いた。もはや嫌な予感しかしない。

「それなら、僕のマンションで三人で一緒に暮らせばいいよ。それで、毎日交代で僕と傑とセックスして好きなほうを選んでよ」

「なるほど、悟のセーフハウスなら安心だね。その案でいこう」

ちっとも安心じゃないです!しかも、体力お化けな五条さんと夏油さんに交代でって、間違いなく死んじゃう……!

「じゃ、帰ろうか。善は急げってね」

「悟、最初なんだから手加減しなよ」

「わかってるって。傑こそ、暴発しないように気をつけな」

「ふふ、どうかな。好きな子が相手だからね。優しくしたいとは思っているけど」

私の意思を置き去りにして恐ろしい内容の会話を交わした二人は、右側の腕を五条さん、左側は夏油さんに捕まえられて、両側からがっちり挟み込むようにして私を連れ去ってしまったのだった。
取り残されたお見合い相手からは連行されていく宇宙人みたいに見えたことだろう。

「た、たすけて……」

私のか細い声が届いていたかどうかはわからない。
ただ、その後、そのお見合い相手とは二度と逢うことはなかった。


  戻る  



- ナノ -