「君はいつも可愛いけど、今日は特別に可愛いね」

傑くんと二人きりで出かけるのは初めてではないけど、今日は特別に気合いを入れて手持ちの中で一番可愛く見える服できたので、褒められて天にも昇る思いだった。
そういう傑くんは黒いレザーのフライトジャケットに同色のカーゴパンツという組み合わせで、いつにも増してカッコいい。
長身で体格もいいからシックな黒が良く似合っていて、年齢よりも大人びて見える。

「傑くんもカッコいいよ」

「ありがとう。君とのデートだから気合いを入れてきたんだ」

「傑くんはいつだって凄く素敵だよ」

「やはり今日は出かけるのはやめて私の部屋に行こう。君があまりにも可愛くて他の誰かに見せるのが心配になってきた」

「もう、傑くんてば」

「ふふ、冗談だよ。じゃあ行こうか」

電車は最初はガラガラだったけど、都心に向かうにつれて混んできた。
途中でお婆さんに席を譲って立った私を、他の人達に押し潰されないように傑くんが自分の腕と身体の間に囲い込んで守ってくれている。これには正直きゅんときた。

「大丈夫かい?」

「うん。傑くんが守ってくれてるから私は平気。傑くんは大丈夫?」

「鍛えているからね。これくらい何ともないさ」

ドアが開いてドッと大勢の人が流れ込んできたが、傑くんはびくともしない。
私の彼氏が頼りになりすぎて何度も恋に落ちてしまうのだけど、どうしよう。

ようやく目的地に到着して電車を降りた私達は映画館にやって来ていた。

「なまえ、これはどうかな」

ビビり克服のためにホラーを観ようか迷っていたら、傑くんが前に二人で観たことがあるアクション映画のシリーズの新作を勧めてくれたのでそれを観ることにした。

チケットを買ってシアターに入り、指定された座席に隣同士に並んで座る。
程なくして照明が落とされて辺りは闇へと沈んでいった。この瞬間はいつもドキドキする。
スクリーンに視線を向けていると、ふと片手に傑くんの手が重ねられた。

「傑く、」

しー、と人差し指を口の前に立てた傑くんに微笑みかけられる。
えっえっ、終わるまでこのままってこと?
ドキドキして映画に集中出来ないよ!

と思っていたけど、いざ映画が始まると、すぐにその世界の中に引き込まれていった。傑くんが勧めてくれただけあって面白い。

映画のラスト、ヒロインや仲間達が生きやすい理想の世界を作るために主人公の男性が犠牲になるのだが、残されたヒロインに感情移入し過ぎてぼろ泣きしてしまった。
片手にハンカチを握りしめながらスクリーンを観ている間、大丈夫だよというように傑くんがずっと手を握ってくれていた。

化粧室で崩れたメイクを直して戻ると傑くんが逆ナンされていた。相手はいかにも都会の女子大生といった感じの綺麗なお姉さんだ。
ピンクのグロスが塗られた唇を動かして何やら懸命に傑くんに話しかけている。というか、口説き落とそうとしている。
相変わらずモテるなあ、などと思いながら遠巻きに見守っていたら、傑くんに気付かれてしまった。

「すみません。彼女が来たので失礼します」

笑顔でさらりと言ってその場に女の人を置き去りにした傑くんが歩み寄って来る。

「ごめんね、待たせちゃって」

「構わないよ。それより、少し疲れたんじゃないか?カフェに入って休憩しよう」

さりげなく私の腰を抱くようにして歩き出す傑くん。
背中に痛いくらい視線が刺さっているのがわかる。とてもじゃないが怖くて振り返れない。下手したらそこらの下級呪霊より怖い。

「気にしなくていい。君は誰よりも可愛いよ」

すかさず傑くんがフォローを入れてくれる。傑くんに言われると、本当に自分が彼にとって特別な女の子なのだと思えてくるから不思議だ。こういうところがモテ男たる所以なのだろう。

カフェに入ってテラス席に座った私達は、それぞれサンドイッチのセットとパンケーキのセットを注文した。

「さっきの映画面白かったね」

「そうだね。君は泣いてたけど」

「だって、あんな最後悲し過ぎるよ」

「大義のために死んだのだから、主人公は満足していたと思うよ。それに、ヒロインのお腹の中には彼の子供がいただろう。きっと寂しくはないさ」

「うん。お父さんにそっくりな男の子だといいね」

映画の感想を話しているうちに注文したメニューがきたので食べ始めようとしたのだが、そこへ頼んでいないケーキが運ばれてきた。

「私が頼んだんだ。今日は一年に一度の特別な日だからね」

傑くんがジャケットのポケットから綺麗にラッピングされた小さな箱を取り出して私の手に握らせる。

「誕生日おめでとう、なまえ」

「ありがとう傑くん!嬉しい!」

お祝いしてくれるだろうなとは思っていたけど、これは不意討ちだった。

「開けてごらん」

傑くんに促されてラッピングを解いていく。
箱の中には銀色に輝く指輪が入っていた。
私達の年頃のカップルが贈りあうピンキーリングとかではなくて、一目で高級なものだとわかる正真正銘本物の指輪だ。
しかも、それだけではなかった。

「それには私の呪力がこめられている」

台座から指輪を取り上げて私の左手の薬指に嵌めながら傑くんが言った。
やっぱりそうか、と思う。この指輪からは強い呪力を感じる。

「これを身に付けていれば、どこにいても私には君がわかる。何が起こっても君のことを守ってあげられる」

「傑くん……」

「重くてすまないね。でも、これが私の気持ちなんだ。何があっても君は私が守ってみせる。必ずね」

「ありがとう。凄く嬉しい」

「本当に?引かれてしまったらどうやって口説き落とそうかと思っていたんだけど」

「傑くんがくれたものに引いたりなんかしないよ」

「良かった。そう言って貰えて安心したよ」

傑くんが恭しい仕草で私の手を持ち上げて指輪が嵌められている薬指に口付ける。

「生まれてきてくれてありがとう。心から愛しているよ、なまえ」

パチパチと周りから拍手が聞こえてきて、今更ながらにここは他のお客さんもいるカフェだったのだと思い出したがもう遅かった。

「傑くん……こういうの何て言うか知ってる?」

「もちろん。熱々のカップルだろう?」

涼しい顔をして言ってのけた傑くんにはきっと一生敵わないのだろうなとつくづく思った誕生日の午後だった。


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