車窓から見える外の景色は夕闇に沈みつつある。 どこか懐かしさを感じる田園風景が徐々に暗くなっていく様子は何故だか寂しく感じられて、隣に寄り添う傑くんの体温がより一層慕わしく思えた。 「怖い?」 首を横に振ったにも関わらず、励ますように私の手を握ってくれた傑くんは相変わらず優しい。 ほんの数時間前に大勢の人間の命を奪った人だとは思えないくらいに。 そのことで傑くんを責める気にはなれなかった。ただ双子の女の子達を抱き締めてその光景を見せないように守るだけで精一杯だった私にそんな権利があるはずがない。 「傑くんは?」 「君がいてくれるから大丈夫だよ」 「私も、傑くんと一緒なら平気」 追っ手がかかるまであとどれくらい猶予があるのだろう。あの村で起こった惨劇を高専が知るまでに、あとどれくらいの時間が残されているのだろうか。 今頃、悟くんや硝子ちゃんは連絡を断った私達を心配しているかもしれない。そう思うと胸が痛んだ。私達は彼らさえも敵に回すことをしてしまったのだ。 心細さがないと言えば嘘になる。でも、それほど絶望的な状況だとは思えなかった。 ただ私達を取り囲む環境が変わるだけで、私と傑くんの関係は変わらないからだ。 私には傑くんしかいないし、傑くんには私しかいない。お互いに支えあって生きていくだけだ。これまでそうだったように。 「本当は少し後悔しているんだ。君を巻き込むべきではなかったと」 傑くんが言った。 「責任は全て私にある。だから、せめて君だけでも──」 「私は傑くんと一緒にいられて良かったと思ってるよ。私の知らないところで傑くんが独りで苦しんでいるより、ずっといい」 「なまえ……」 傑くんの瞳が僅かに揺れる。だから私は彼の手を指を絡めてしっかりと握り返した。 大丈夫だよ、と安心させたくて。 「私達はずっと一緒だよ。今までも、これから先も、ずっと。お願いだから独りで苦しまないで」 「ごめん……ありがとう」 傑くんがこちらに上体を屈めて私の唇にそっと自分の唇を重ねた。たったそれだけの触れあいが今は何よりも尊いものに感じられる。 ん……と小さな声が聞こえて慌てて身を離したが、向かい側に座る双子は眠ったままだった。どうやら寝言だったようだ。 私は傑くんと顔を見合せて笑った。 「よく寝てるね」 「よほど疲れていたんだろう。あんな環境にいたのだから無理もないさ」 彼女達が置かれていた状態を思い出したのか、傑くんの表情は固い。 「もうあんな目には遇わせない、でしょ?そのために連れて来たんだもんね」 「ああ。これからは私が守る。この子達も君もね」 傑くんが淡い微笑みを浮かべて私を見る。 「ずっと一緒にいよう。この先何があっても、君が側にいてくれたなら、どんなことも乗り越えていける。乗り越えてみせる」 「うん。傑くんは私が守るからね」 「それは頼もしいな」 車窓から見える景色はいつの間にか夜の闇の中に完全に沈んでいた。 夜空には星が輝いている。 どこに行くとも知れないまま乗り込んだ電車の中で、私達はお互いのぬくもりだけを感じながら静かに瞳を閉じた。 |